なぜ丸亀製麺では、店頭に小麦粉が入った袋を「あえて無造作に積んでおく」のか? 「業績低迷→大復活」をもたらした思考法

インフレ時代が到来し、さまざまな商品の価格が上昇する令和の日本。外食チェーンも例外ではなく、多くの企業が値上げを実施していますが、その結果、客離れが進む店舗と、依然として多くの客を集める店舗に分かれています。その違いはどこにあるのでしょうか。一つの要因として「テーマパーク性」が挙げられます。

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家の谷頭和希氏の新著『ニセコ化するニッポン』では、好調を維持するうどんチェーン「丸亀製麺」の成功要因が取り上げられています。本記事では、その内容を抜粋・再構成してお届けします。

「選択と集中」によるV字回復
丸亀製麺は、全国展開するうどんチェーンで、店内の製麺機で作られたうどんを提供することが特徴です。このスタイルは、創業者の父親の故郷である香川県の讃岐うどん店の影響を受けています。同社を運営するトリドールホールディングスは、もともと鳥料理の居酒屋チェーンとして誕生しましたが、2000年代に主力業態を丸亀製麺へとシフト。その後、競合の「はなまるうどん」を抜き、全国1位の店舗数を誇るようになりました。

しかし、2018年ごろから業績が低迷。そこで改革のために招かれたのが、日本を代表するマーケターであり、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再生を手掛けた森岡毅氏(株式会社刀)でした。

「粉から手作り」が最大の強み
森岡氏は、丸亀製麺の最大の強みを「粉から手作りであること」とし、それを徹底的に強化しました。彼は次のように語ります。

> 「創業時からの哲学『出来たての感動を届けたい』は正しい。実際にすべての店内で粉から麺を手作りし、出来たてのおいしさにこだわってきた。原料は『国産小麦、水、塩』のみで、保存料や添加物は一切使用していない。しかし、この最大のブランド資産が消費者に十分伝わっていなかった。」

この強みを明確に打ち出すために、「粉から手作り」という点を広告に盛り込み、店舗戦略にも反映させました。

店舗空間の演出と「テーマパーク化」
森岡氏が注目したのは「店舗空間の改革」でした。例えば、店頭に小麦粉の袋を無造作に積むことで、本場・香川のうどん店のような雰囲気を演出。また、厨房を囲むように列を配置し、客がうどんを作る様子を見られる設計としました。

ただし、行列の存在が「後ろの人に急かされる」という負の側面もあったため、店頭にメニュー表を置くなどの改善策を講じました。こうして、顧客体験を損なうことなく、丸亀製麺ならではの「うどんのテーマパーク化」を進めたのです。

「選択と集中」の重要性
森岡氏の戦略の鍵は、「選択と集中」にありました。「打ち立てうどん」という体験を最大化するために、店内の空間全体を「うどん体験」に特化させたのです。これは、北海道・ニセコが「パウダースノー」を売りに観光地化した戦略と類似しています。

重要なのは、丸亀製麺がもともと持っていた強みを再発見し、それに集中したこと。実は、同社は以前から「選択と集中」を重視していました。創業者の粟田貴也氏は、次のように語っています。

> 「全員が『いいね』と言うものは大したことがない。みんなにとって平均的に良いものを目指せば、他のチェーン店と同じになり、個性がなくなってしまう。」

丸亀製麺は、各店舗で製麺することで店ごとに若干の味の違いが生じます。しかし、これを「個性」と捉え、あえて標準化しないことでファンを獲得しました。森岡氏の改革は、まさにこの「強み」を最大限に活かす形で行われたのです。

ラグジュアリーとは何か?

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