梅雨空が増え始める芒種(ぼうしゅ)の頃、雨で煙るぼんやりとした街のなかに、色鮮やかなアジサイが浮かび上がる。青や紫、ピンクなど、新緑に映える色合いながら、風景に柔らかくなじむ日本らしい花だ。四季折々に美しい日本の自然情景を織物で表現するインテリアファブリックスブランド、Sumiko Honda(以下SH)の2023年新作は、そんなアジサイをダイナミックに描いている。
同ブランドは、古くからの織物産地である京都・西陣に創業し、170年以上もの歴史を刻んできた川島織物セルコンによるもの。織物の技術を生かして幅広いインテリアファブリックスブランドを展開するなかでも、最高級となるのがSHだ。
「原画は水彩や墨で描き、揺れのあるラインや微妙なにじみを織物で再現するために、糸や染料、経糸と緯糸の構成などを何度も検討しています」と話すのは、SHの生みの親であり、同社のインハウスデザイナーである本田純子氏。彼女が捉えた“季節の移ろい”や“光と影”は、多様な糸を緻密な設計図に基づいて織り上げることにより、奥行きを感じさせる美しいファブリックとなるのだ。
アジサイを描いた今回のデザインでは、1本を2色に染め分けた糸を使用。これまで以上に複雑で立体感のある表現をかなえた。さらにアジサイのボリューム感を生かした大柄のデザインに挑戦。「大胆で華やかな一方で威圧感が出ないよう、背景にはあえて同系色を使っています。アジサイの根元に生えていた植物のシルエットも一緒に描き、全体の輪郭をぼかしているのですが、それが雨の鈍い光のなかにぼんやりと咲いている情景にぴったり重なりました」と振り返る。