南伊豆の夏は、地中海リゾートにも似て

東に相模湾、西に駿河湾を従え、南に約50kmに渡って突き出た伊豆半島。中央の緑深い山岳地帯と変化に富んだ海岸線が風光明媚であると共に、豊かな山海の幸や豊富な温泉郷に恵まれた日本有数の観光地だ。

Text Koko Shinoda

東に相模湾、西に駿河湾を従え、南に約50kmに渡って突き出た伊豆半島。中央の緑深い山岳地帯と変化に富んだ海岸線が風光明媚であると共に、豊かな山海の幸や豊富な温泉郷に恵まれた日本有数の観光地だ。

海抜56mの高台に建ち、晴れた日には伊豆七島までも一望できる美しい景観が魅力の下田東急ホテル。
海抜56mの高台に建ち、晴れた日には伊豆七島までも一望できる美しい景観が魅力の下田東急ホテル。

東京から一路、踊り子号の列車で南端に近い下田まで、約2時間半。川端康成の名作「伊豆の踊子」の場面を彷彿とさせる旅の終わりに、紺碧の海に抱かれた下田の町に着く。

黒船が訪れた幕末時代の港町風情を残す下田の町、その北西部に聳える60m近い小山は、かつて港を見張る御番所のあった所。現在は、翼を広げたような形で下田東急ホテルが佇み、大浦湾の絶景を独り占めしてる。

ドラマチックなランドスケープを利用して、緑豊かな庭園、その少し下にヤシの木に囲まれた宿泊者専用のプールが隠されている。そこから樹林の小道を下っていくと、小さな入江に守られた鍋田浜海水浴場に迎えられる。旅行者の少ない遠浅のビーチは、地元の人々に混じって寛げる、憩いの浜だ。

窓の外に雄大な海が広がる、ゆったりとした間取りのデラックスルーム。くつろぎにあふれたぜいたくなひと時を楽しみたい。
窓の外に雄大な海が広がる、ゆったりとした間取りのデラックスルーム。くつろぎにあふれたぜいたくなひと時を楽しみたい。

客室(112室)の大半はオーシャン・ビューのツインルームで、晴れた日には伊豆七島が水平線に望める。海側にはさらに和室が4室あるほか、最上階6階には昭和天皇が宿泊されたロイヤルクラシカルスィートが。また、5階には三島由紀夫が愛用した、落ち 着いた雰囲気の⼭側のツインルームも残されている。彼はここで最後となる小説「豊饒の海」を書き上げた。

ホテルから下田の街までは徒歩20分圏内。ホテルを拠点にした観光もおすすめだ。
ホテルから下田の街までは徒歩20分圏内。ホテルを拠点にした観光もおすすめだ。

ホテルは1962年に開業し、伊豆のリゾート・ホテルの先駆けとして話題を集めた。2017年に館内の大改装を行ったが、伊豆国立公園に位置するため、大規模な改造は制限されており、今も広い庭園に囲まれた中層のゆったりした造りを留めている。

一階は、半世紀を経たホテルの歴史を物語るギャラリーがある。南伊豆を代表するホテルとして様々な式典の場にも。庭園に青葉を吹くオリーブの木は、バチカンとの交流を記念したもの。

椰子に囲まれたリゾート感あふれる宿泊者専用ガーデンプール。プールサイドより鍋田浜ビーチまでの遊歩道もある。
椰子に囲まれたリゾート感あふれる宿泊者専用ガーデンプール。プールサイドより鍋田浜ビーチまでの遊歩道もある。

このホテルが欧米人にも人気なのは、オリーブの育つ南伊豆の風土と、入り組んだ海岸線を見下ろす立地などが地中海リゾートを思わせるからだろう。

下田東急ホテル名物のフィッシャーマンズスープ。一度食べたらその味の虜になるだろう。
下田東急ホテル名物のフィッシャーマンズスープ。一度食べたらその味の虜になるだろう。

庭園に面したガラス張りのレストラン「マ・シェール・メール番所」は、地元の山海の食材生かした和洋折衷料理が好評だ。伊勢海老の風味たっぷりのフィッシャーマンズスープ、本場の山葵で一段と引き立つお造り。ワインの種類も豊富に取り揃えられている。

海を眺める芝生のガーデンに面したレストランの店内。美しい景色と伊豆の食材を使用した美食を堪能したい。
海を眺める芝生のガーデンに面したレストランの店内。美しい景色と伊豆の食材を使用した美食を堪能したい。

夏のシーズンにはバーベキューをコース仕⽴てで楽しむ、ガーデン・ダイニングも人気だ。朝食は海の展望と朝日を満喫しながら、バラエティたっぷりのブッフェが並ぶ。伊豆産の旬のフルーツや野菜が彩を添える。

眼下に大浦湾を、晴れた日には水平線に浮かぶ伊豆諸島を眺望できる温泉で、心も体もリフレッシュできること間違いなしだ。
眼下に大浦湾を、晴れた日には水平線に浮かぶ伊豆諸島を眺望できる温泉で、心も体もリフレッシュできること間違いなしだ。

食事前に、朝日にきらめく海、あるいは満点の星空を仰ぐ露天風呂へ。湯煙の中に浮かぶ、一際大きな島影は⼤島の隣の新島らしい。

伊豆の踊子の小説では、主人公は下田港で、大島に帰る踊り子と胸を引き裂かれるような別れを経験する。

今では下田から高速船(限定運航だが)で大島まで⼩⼀時間だが、遥かな離島であった大正時代…長い旅路のロマンに浸りながら、さらさらと肌に心地よい単純泉に心身が癒やされた。

  • ノスタルジックな風情があふれ、歴史を感じられるペリー・ロード。異国情緒漂う風景をゆったりと堪能してみては。 ノスタルジックな風情があふれ、歴史を感じられるペリー・ロード。異国情緒漂う風景をゆったりと堪能してみては。
    ノスタルジックな風情があふれ、歴史を感じられるペリー・ロード。異国情緒漂う風景をゆったりと堪能してみては。
  • ホテル内のガーデンではガーデンヨガを実施している。美しい海を見ながら、椰子の木の下で行うヨガは爽快だ。 ホテル内のガーデンではガーデンヨガを実施している。美しい海を見ながら、椰子の木の下で行うヨガは爽快だ。
    ホテル内のガーデンではガーデンヨガを実施している。美しい海を見ながら、椰子の木の下で行うヨガは爽快だ。
  • ノスタルジックな風情があふれ、歴史を感じられるペリー・ロード。異国情緒漂う風景をゆったりと堪能してみては。
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ホテルからは伊豆急下田駅まで、シャトルバスが運行されている。数分の距離だが、幕末の開国名所旧跡である宝福寺や了仙 寺、⻑楽寺、ペリー・ロード付近を通るので探訪の参考に。ホテルから歩いていける、和歌の浦遊歩道も散策におすすめだ。

ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで2つ星を獲得した約2.5kmの遊歩道だ。伊勢海老や鮑が生息する磯風景(漁は禁止されている)と、ユネスコ世界ジオパークにも認定された、迫力ある海辺の造形が楽しめる。

  • 夏季はグッドナイト花火も開催。宿泊者だけの特典で、目の前に打ち上げられる花火をホテルのガーデンより楽しめる。 夏季はグッドナイト花火も開催。宿泊者だけの特典で、目の前に打ち上げられる花火をホテルのガーデンより楽しめる。
    夏季はグッドナイト花火も開催。宿泊者だけの特典で、目の前に打ち上げられる花火をホテルのガーデンより楽しめる。
  • ホテルから徒歩5分の鍋田浜海水浴場。透明度抜群なので、シュノーケリングも楽しめる。 ホテルから徒歩5分の鍋田浜海水浴場。透明度抜群なので、シュノーケリングも楽しめる。
    ホテルから徒歩5分の鍋田浜海水浴場。透明度抜群なので、シュノーケリングも楽しめる。
  • 夏季はグッドナイト花火も開催。宿泊者だけの特典で、目の前に打ち上げられる花火をホテルのガーデンより楽しめる。
  • ホテルから徒歩5分の鍋田浜海水浴場。透明度抜群なので、シュノーケリングも楽しめる。

遊歩道は黒船を率いたペリー総督ゆかりの、ペリー・ロードに通じている。なまこ壁の古民家が並ぶ川沿いの道は、レトロな旅情へと誘う。そぞろ歩きしている内に、マドレーヌの名店、日新堂に行き当った。

ホテルのお茶請けにもだされるそれは、三島由紀夫が絶賛したという、リッチでまろやかな風味。下田を「僕の夏の故郷」と称し、多くの夏をここで過ごした三島は、半世紀を経ても昔の姿を留める定宿と、変わることのない味わいのマドレーヌを、豊饒の海の彼方で喜んでいることだろう。

●下田東急ホテル TEL0558-22-2411

※『Nile’s NILE』2021年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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