八ヶ岳の美しい自然の中に立つ、円形の外観が特徴的な「八ヶ岳 えさき」。日本料理にその人ありと知られた、ミシュランガイドの常連料理人、江﨑新太郎氏が満を持してオープンした新店舗は、まさに隠れ家と呼ぶにふさわしいロケーションの中にある。1日に昼夜それぞれ1組の予約しか受けないその店は、食卓と厨房が一つの空間の中にあり、調理をする江﨑氏の動きが、ほぼすべて見えるようになっている。
その厨房を手がけたのが、タニコーの家庭用オーダーキッチンブランド「MEISDEL(マイスデル)」だ。建物全体の設計を手がけた福田世志弥さんの勧めで、一緒にマイスデルのショールームに行ったところ、いわゆるプロ用の厨房にありがちなシルバー一辺倒じゃなくて、色や質感もバリエーションが多い。什器の取っ手なども思い通りにオーダーできる。この店の厨房は、建物全体の雰囲気と自然になじむものにしたかったし、何より窓の外に広がる景色と一体感のあるものにしたかった。
「什器の外側に使ったこの色は、一目で気に入りました」
マットな質感の黒い床によく映える、やわらかな赤みを帯びたピンクブロンズ。冷蔵庫など電化製品の外装もオーダーできるのが、プロ用厨房メーカーの強みだ。
「引き出しや扉の取っ手まで、福田さんの細かい要望を反映して、この建物全体の雰囲気にぴたりとくる厨房が出来ました」
大事なゲストを自宅に招く気持ちでもてなしたい。その厨房はプロの技を支える機能性はそのままに、家庭的な雰囲気を醸し出すよう、デザイン性にも妥協を許さなかった。
「もちろん機能的な面でも、すごく細かくオーダーに応えてもらっています。例えば作業によって快適な高さが違うので、壁際のガス台と中央の盛り付けに使う台は、私の体に合わせて高さを変えています。またいくつかあるシンクも、それぞれ広さや深さが違います。すべて一人で作業するので、負担なく動けるように、またお客様からすべて見えるところですから、きれいに動けるように、考え抜いて作りました。実際使ってみて、本当にストレスが少ない。体が自然に動ける厨房です」
ちなみに江﨑氏は同じ敷地内にある自宅にも、タニコーのオーダーキッチンを入れている。
「什器の外装は、シルバーのステンレスのバイブレーション仕上げ。これは手脂で汚れにくいので、手入れが楽。マットな質感は和のテイストによく合います。調理台などは、私と妻の両方が使いやすい高さにしています。建物自体が丸いので、その曲線に合わせて什器を作るのは、意外と難しいそうですが、これもきれいに合わせてもらいました」
ここで料理をしていると、体も気持ちも自然でいられるという江﨑氏。思い通りにしつらえた美しい厨房が、その創作を支えている。
※『Nile’s NILE』2020年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています