以前、こんな逸話が世を驚かせたことがある。アメリカ合衆国で、ある一人の男性が古物商から卵のオブジェを買い取った。男性はいつかそれを溶解し、ゴールドとサファイア部を再利用しようと、数年間キッチンに放置していたが、ふと卵に刻まれていた時計の銘が気になって由来を調べてみたところ、実は失われたロマノフ家の至宝であったことが判明。後にこのピースは、34億円の値がつけられることとなる。そんな壮大な物語の主役となったのが、〝ファベルジェの卵〟だ。
1842年、サンクトペテルブルクに創業したファベルジェは、2代目のピーター・カール・ファベルジェの時代に帝政ロシア皇帝の金細工職人に任命され、多くの芸術作品を生み出した。中でも有名なのが、ファベルジェの卵と呼ばれるインペリアル・イースター・エッグだ。見事な細工を施した作品群は、今も同社の最高傑作とされている。ロマノフ朝の終焉後、制作された50個のうち7点がいまだ行方不明。先述のエッグは、ファベルジェが1887年に皇妃マリア・フョードロヴナのために制作したものであり、43番目の再発見としてその名を歴史に刻んだ。
現在もファベルジェは、カラーストーン鉱山を所有するロンドンのジェムフィールズ社の傘下で、エッグ制作を続けている。手元にすっぽりと収まるこの小さな芸術品が、いつしか栄華の物語となる―そんなロマンティックな夢を、この深い輝きは語り続けるのである。
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