ウォッチズ&ワンダーズの開催期間中の4月5日から26日まで、ジュネーブ市内のパテック フィリップ本店サロンで《稀少なハンドクラフト2025》と銘打ったエキシビションが開催された。2023年に東京・西新宿で行われた《パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エキシビション(東京2023)》では「希少なハンドクラフト・ルーム」に伝統技法による腕時計、懐中時計、ドーム・テーブルクロックの数々が並び、大きな称賛を浴びた。
今回の展示会では、そこで披露されていた手彫金、クロワゾネ本七宝、七宝細密画、ギヨシェ装飾、ジェム・セッティング、木象嵌や、それらの技法を組み合わせた〈混合技法〉を駆使した最新作78点が並んだ。
腕時計では、伊藤若冲にインスパイアされたという、オウムをクロワゾネ本七宝と七宝細密画で文字盤に描いたゴールデン・エリプス、木象嵌によって鷲を写実的に表現したゴールデン・エリプスなどが目を引いた。
ドームクロックでは、木象嵌によるジュネーブ港の情景、スキー観光でにぎわいを見せた古きよき時代のスイスを懐かしむノスタルジックな絵柄、またジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』を着想源に、巨大なタコが足をくねらせる様子など、意外性のある作品も印象的だった。
ほとんどがユニークピースで、各国の正規販売店を通じて、特別な顧客に販売されるという。パテック フィリップによる伝統技法の継承・発展の取り組みの成果を評価したい。
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ゴールデン・エリプスの文字盤上に木象嵌技法で、鷲の羽毛までリアルに表現した「白頭鷲」。
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クロワゾネ本七宝、グリザイユ本七宝、七宝細密画などの技法でジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』の世界を表現した「ノーチラス」。タコの姿が印象的。
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江戸時代の画家、伊藤若冲にインスパイアされたという、和テーストの「黄色い冠羽のキバタン」。松の枝に黄色い冠羽のオウムが止まっている様子を、クロワゾネと細密画で描いた。
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作品タイトルは「過ぎ去りし日々のスキー」。クロワゾネ本七宝と七宝細密画によって描かれた、20世紀初頭のスキー観光でにぎわった時代のスイスを懐かしむ絵柄が味わい深い。
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チャリティーオークションOnly Watch 2021において、パテック フィリップは、1923年にジェームス・ウォード・パッカード、1927年にヘンリー・グレーブス・ジュニアに販売したデスククロックにインスパイアされたモデルを出品。約11億8000万円で落札された。それをベースとして進化を遂げたデスククロック「コンプリケーテッド・デスククロック Ref.27000M」が今年の新作現行コレクションとして発表され、この会場にも展示された。永久カレンダーとウィークリー・カレンダーを備え、31日間のパワーリザーブを持ち、精密調速装置により日差±1秒の高精度を実現。スターリング・シルバーのケースに緑フランケ本七宝パネルを配し、外装も見事な出来栄え。手巻き、ケースサイズ164.6×125㎜、高さ76.73㎜。186,560,000円。
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ムーブメントの輪列をモチーフとする「時計の歯車」。クロワゾネ本七宝、グリザイユ本七宝、七宝細密画などの技法を組み合わせた。
※『Nile’s NILE』2025年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています