時計がもたらす“ときめき”を伝えるために

腕時計の取り扱いで約半世紀もの実績を持ち、全国に11店舗のHANDA Watch Worldを展開するミスズ。
その社長である半田晴久氏は、ハイエンドなタイムピースの世界有数のコレクターでもある。腕時計を選ぶ基準は「ときめき」と語る半田氏に、自身の時計観、そして腕時計を取り扱う思いや哲学を聞く。

Photo   Text Yasushi Matsuami

腕時計の取り扱いで約半世紀もの実績を持ち、全国に11店舗のHANDA Watch Worldを展開するミスズ。
その社長である半田晴久氏は、ハイエンドなタイムピースの世界有数のコレクターでもある。腕時計を選ぶ基準は「ときめき」と語る半田氏に、自身の時計観、そして腕時計を取り扱う思いや哲学を聞く。

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    パテック フィリップ「スカイムーン・トゥールビヨン6002モデル」。ケース全体に手彫金を施したホワイトゴールドケースに、ミニット・リピーター、トゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、裏面に恒星時と天体表示機能など、12の複雑機能を備えるダブルフェイスウォッチ。表ダイヤルは、シャンルベとクロワゾネの二つの本七宝技法によって仕上げられている。手巻き、ケース径44㎜、WGケース×アリゲーターストラップ。半田氏私物。
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    18世紀にオートマタや自動人形などを製作したことで知られるピエール・ジャケ・ドロー。彼が手掛けた仕掛け時計シンギング・バードを着想源に、そのDNAを受け継ぐブランド、ジャケ・ドローが、鳥のオートマタを腕時計に仕込んだ傑作。鳥の動きのみならず、鳴き声もふいごを用いて再現。日本に存在するのは、この1モデルのみ。自動巻き、ケース径47㎜、WGケース×アリゲーターストラップ。半田氏私物。
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かつて作家・井伏鱒二や太宰治、歌人・与謝野鉄幹・晶子夫妻、また版画家の棟方志功ら、名だたる文化人が居を構えていた荻窪・西荻窪界隈。往時の文化の薫りを今にとどめる西荻窪の地に、ミスズが拠点を置いたのは、今から半世紀近く前の1978(昭和53)年のことだ。当初は教育事業からスタートし、翌79年には時計事業部を設立。シチズンを嚆矢として、セイコー、カシオ、オリエントなどの国産時計ブランドを取り扱う一方、80年からはオリジナル時計の製造、輸入も手掛け始める。比較的手に取りやすい価格帯のファッションウォッチがメインだったが、転機が訪れたのが2016年。半田晴久社長は、こう語る。

「スイスの『ユニオン・オルロジェリー』というブランドの取り扱いを始めましたが、100万円を超える商品は、これが初めて。高級時計を取り扱うのなら、もっと時計に詳しくならなくてはという思いがありましたし、身銭を切って実際に買わずに、お客様にお勧めするのは誠実ではないという気持ちもありました。そこで、その年の『時の記念日』の6月10 日に、自分も時計好きになることを 決心したのです」

まず訪れたのが東京・銀座のアワーグラス。その場で、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」の金無垢ケースモデルを求めた。1週間後には、東京・幡ヶ谷のYOSHIDAで、パテック フィリップのパーペチュアルカレンダーモデルを購入する。これを皮切りに、半田氏は全国のハイエンドな腕時計店を訪ね、エクスクルーシブなタイムピースを自身のコレクションに加えていく。そうしながら、時計に対する知見はもちろん、高級時計業界の仕組み、店舗の在り方やホスピタリティーについても情報や考え方を深めていく。

半田氏が高級時計の世界の階段を上り始めて約8年、今やそのコレクションは質、量ともに最高峰レベルに到達したと言っても過言ではない。トゥールビヨン、ミニッツリピーターは言わずもがな。それらを組み合わせた超複雑モデル、メティエダールの粋を凝らしたアートピース、数本限定の特殊機構のモデルなどなど、コレクター垂涎の300モデル以上が半田氏の下に集まっている。

「時計を選ぶ基準は、ときめくかどうか、それだけです。ジャケ・ドローの『チャーミング・バード』は、時間を知らせる機能とは関係のない、鳥のオートマタに魅せられました。このモデルを発想した人、作った人、それを売るということ全てがすごい。パテック フィリップの『スカイムーン・トゥールビヨン6002』は、最もときめいた一本。リピーターの音色調整のために3年待ちましたが、その価値のある素晴らしい音色です。ケース全体に施されたエングレーブも見事。これを完成させるのにどれだけの職人が関わったのかと思うと、感動を覚えます。この時計を手にした後では、ときめく時計に出会うのが難しいと感じるほどです」

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。