南イタリアはナポリにほど近いカンパニア州の古都、ノラ。紀元5世紀に、この街で人類史上初めて教会の鐘の音で時を告げる行為がなされた。カンパノラ・ベルと呼ばれたその名にちなみ、千年紀という大きな時の節目の2000年にシチズンからデビューしたウォッチブランドが「カンパノラ」である。“時を愉しむ”をコンセプトに掲げ、独創的なパーペチュアルカレンダー、グランドコンプリケーション、精緻な天体表示機能を備えたモデルなどをラインアップ。また“宙空の美”をコンセプトに、立体感豊かな文字盤に宇宙の壮大な景観を閉じ込め、さらに会津漆や日本の伝統色を用いた文字盤でも、時計愛好家の心を捉えてきた。
その「カンパノラ」から、この6月に登場するグローバルアート コレクション「天」と「地」は、デビューから20年以上の時を重ね、至高の域に足を踏み入れたモデルといっても過言ではない。万物の根源というべき「天」と「地」という壮大なテーマを表現することを目指し、「カンパノラ」として初めて薄型のトゥールビヨンを搭載している点をまず押さえたい。
シチズンは2012年に、スイスの時計製造の都ラ・ショー・ド・フォンにあるハイエンドムーブメントのサプライヤー、ラ・ジュー・ペレ社をグループ傘下に収めた。以降、同社製キャリバーを搭載したメカニカル コレクションのほか、技術提携によるさまざまなシナジー効果を生んできた。今回発表される「天」と「地」は、その大いなる成果というべきものだ。ラ・ジュー・ペレ社製のフライングトゥールビヨンは、テンプ位置を偏心させた独自の設計で、通常のものよりダイナミックな動きを見せる。6時位置にのぞくトゥールビヨンキャリッジのセンターには、カンパノラ・ベルのロゴがシンボリックに配置され、重力の影響を平均化するべく調速脱進機構が1分間で1回転の華麗な舞を披露する。実は、このカンパノラ・ベルの重さを考慮し、正確かつ精緻な動きを担保するために、かなりの技術的ハードルをクリアする必要があったという。
文字板は、会津塗の伝統工芸士、儀同哲夫氏の手によるもの。儀同氏は、これまでにも「カンパノラ」の文字板製作に大きな足跡を残してきた人物。今回、「天」では螺鈿細工で大小の星々を、プラチナ粉を蒔いて研ぎ出す技法で星雲を描き、さらに全体をブルーの透き漆で覆うことで、無限の宇宙空間を表現した。「地」では、乾漆粉で荒らした生地に金を蒔いて研ぎ出し、古美の世界観にも通じる表現で悠久の大地を描き出した。儀同氏渾身の作が、この時計たちをさらなる高みへと押し上げている。
ホワイトゴールド製ケースの厚みはわずか10mm。複雑さを極めたムーブメントを収めながら、気品あるたたずまいと着け心地も特筆に価する。「天」「地」ともに5本のみが限定製作される。日本とスイスの技術と美意識が高次元で溶け合い、神秘的なまでの魅力をたたえた記念碑的なモデル。願わくば2本を対にして、その深遠な世界観を堪能したい。
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