
明治時代から現在まで、さまざまな古典演劇の名舞台を世に送り出してきた歌舞伎座、そのほど近く。銀座・昭和通り沿いに小さな2階建ての店を構えるインド料理専門店をご存じだろうか。ナイルレストラン│店名の書かれた扉を開けると目に飛び込んでくるのは、鮮やかなピンクを基調にしたエキゾチックな店内。2階に上がればインド細密画の壁画が出迎えてくれる。実はこの店、76年もの歴史の中で銀座を見守り続けてきた、日本最古のインド料理店なのだ。
「創業者のA・M・ナイルは偉大な人でした。彼はイギリス植民地下のインドに生まれ、インド独立運動を行う中で日本へ留学。京都大学で学びながら、インドやアジア各国の独立のため、日本でさまざまな活動をしました。戦後、インドが無事独立した後は、日印平和条約の締結に向けて尽力し、その一環としてインドの文化を日本に広めるために、インド料理店を開いたのです。1949年のことでした」
教えてくれたのは、ナイルレストラン3代目店主のナイル善己(よしみ) さん。初代A・M・ナイルさんの孫にあたり、5年前に店を正式に受け継いだ。「今でこそ地元の方、観光の方、歌舞伎役者さんをはじめとした芸能関係の方まで多くのお客様が来店してくださるようになりましたが、戦後間もない頃の日本はまだ貧しく、派手なイメージのあるインド料理は、日本の人には敬遠されがちだったそうなんです。むしろ、当時のメイン客層は外国の方だったのだとか」