今年5月、神田裕行さんは独立し、自身の店を開いて20年を迎える。この節目の年に、本誌で5年にわたり連載した料理哲学をまとめた書籍『真味不唯淡』を出版することになった。同書は120点以上の写真で構成した自身初となる料理写真集でもある。料理の美しさはもちろんのこと、そのおいしさまでが伝わる圧倒的なビジュアルだ。
日本料理の華である“椀”
神田さんの連載は2012年5月の「日本料理の華」として始まり、25回にわたって続いた。彼は椀を日本料理の最高峰と考え、椀を通じて料理人の全てが客に見えると語った。具体的には、椀の出汁について、「煮物などに使う二番出汁よりも淡くなければならない」と説明し、その味が日本の美学を象徴していると述べた。
調理場に立ち続ける覚悟
神田さんの連載は、椀に続く「旬の料理」と「米の料理」をテーマにし、全30回で90以上の料理を紹介した。それぞれが独自の進化を遂げ、来年にはさらなる改良が期待される。彼は毎日料理を作り、考え続けることで進化を重ねてきた。自身が調理場を離れない理由は、料理を真摯に追求するため。海外のイベントでは店を閉め、自らの手で料理を振る舞う。彼の原動力は料理への深い愛情であり、材料や食べ手の要望に真摯に向き合い、料理を生み出すことにある。