パレットナイフで線を崩す
次ページで紹介しているのは、ヤリイカの前菜です。ヤリイカをソテーし、シトロンコンフィやパセリなどの入ったバターで香りをまとわせます。コゴミなどの山菜とともに、ブロッコリーのピュレの上に盛りつけました。
泡状のソースは、煮詰めたイカの出汁がベースで、バラした塩タラコで濃度をつけてこし、リモンチェッロと発酵バターで風味づけ。ほんのりとしたコク、透明感のある風味が特徴です。
イカと山菜は味の相性が良いだけでなく、どちらも自然のもの。また、イカは海底の、山菜は土の中のパワーを蓄えているので、食べると非常に生命力を感じる。そうした共通項のある食材を組み合わせました。
皿には、イカ墨のソースで描いた線をパレットナイフで崩した、ちょっと不思議な雰囲気の絵を描いています。イカは、逃げる時に墨を吐きます。そのイメージを表現しました。食べるとは命をいただくこと。そうした思いで描いています。
食材の「陰」の世界を写真で捉える
もともと写真は、見るのも撮るのも好きです。愛用しているのは、富士フイルムのミラーレス一眼X-T3。画像データはブルートゥースでスマホと共有できるので、インスタグラムにもアップしています。繊細なニュアンスも捉えてくれるので、大きくプリントしても大丈夫です。
最近は、テーマを設け、より時間をかけて写真に取り組んでいます。人生は一度きり。やりたいことをやらなければ。それで、じっくりと自分なりの表現に取り組んでみようと思ったのです。
今追っているのは、食材の「陰」の世界。例えば割烹のカウンターには美しく食材が並べられていますが、それとは対照的な世界。生き物としての食材が時折見せる、生々しい表情を追っています。
パッと見て奇麗と思わないかもしれない。でも、普段から食材を扱う人間として、一度そこを正面から追ってみたかった。秋にはこのテーマで私が撮影した写真を集め、個展を開く予定です。
フロマージュブランは私の相棒
フロマージュブランは、私の料理人人生を通して常にともにある食材です。というのは、私はフランス料理の料理人ですが、バターやクリームがあまり好きではない。そこで活躍するのが、フロマージュブラン。クリームの代わりにソースに濃度をつけることもでき、ヘルシーです。
フロマージュブランは水きりすることで、料理への活用方法が格段に広がります。例えば今回の魚料理(次ページ)は、フィレにおろしたサワラの切り身を1日かけて脱水シートで包み水分を抜き、その後、水きりしたフロマージュブランで2日間マリネしました。こうすることで、味噌漬けにしたように、旨みが増すのです。
また、水きりで出た水分(乳漿:にゅうしょう)にも素晴らしい活用法が。菜の花を乳漿でマリネしてからさっと蒸し煮にすると、本来の風味が強調され、奥行きのある仕上がりになるのです。面白いでしょう?
フロマージュブランはヘルシーなだけでなく、効能も優れているのです。