伝統の体現者として

世界に名をはせる、創業450年の京料理の名店「瓢亭」。昨年、「南禅寺 瓢亭 日比谷店」をオープンさせたことでも話題の15代目・髙橋義弘氏による、DNAに刻み込まれた伝統と、時代に即した発想が光る「瓢亭」ならではの茶懐石は、まさに日本が誇る食文化の一つだ。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

世界に名をはせる、創業450年の京料理の名店「瓢亭」。昨年、「南禅寺 瓢亭 日比谷店」をオープンさせたことでも話題の15代目・髙橋義弘氏による、DNAに刻み込まれた伝統と、時代に即した発想が光る「瓢亭」ならではの茶懐石は、まさに日本が誇る食文化の一つだ。

南禅寺前に450年。「瓢亭」の15代目

およそ450年前、京都・南禅寺境内の門番所を兼ねて、南禅寺総門外松林茶店(腰掛茶屋)として暖簾を揚げたのが「瓢亭」の始まりです。当時から茶と菓子以外に、煮抜き玉子を提供していたようです。

幕末に出された『花洛名勝図会』という書物でも、瓢亭は京の名勝の一つに数えられていて、半熟鶏卵が名物とされています。今でも瓢亭玉子を始め、朝がゆや茶懐石という伝統を守り続けていますが、瓢亭らしさは大切にしながら、時代に合わせて常に新しいことに挑戦し、変化してきました。

京都のイメージが強いと思いますが、かつて渋谷のパルコに出店したこともあり、全国各地でイベントを開催するなど、食文化の交流のために積極的に外に出てきたという経緯もあります。

日比谷ミッドタウンに「南禅寺 瓢亭 日比谷店」をオープンしたのも、東日本の拠点として機能させるためです。実際に、東北などでイベントを通してご縁のあった方々も来てくださっていて、うれしいですね。

私自身は京都に3日、東京に4日、その間にイベントがあったりして、ほとんど休みはありませんが、せっかく新しい拠点を得たので、例えば京都の料理人と何人かでイベントをするなど、いろいろとやってみたいことを考える日々です。

先代の父・英一

幸いにも、父の英一とは調理場で20年近く仕事をすることができています。父はもう80歳ですが、今でもよく茶懐石の指導などに出かけています。父から一番学んだのは、コミュニケーションの部分ですね。挨拶を大事にするとか、モノの扱い方、人との接し方、意識、態度。そうしたすべての中で、自分なりに努力して豊かな人間性を作ることが大切です。

父は若い頃、菊乃井の村田吉弘さんのお父さんによくしてもらっていて、その後は父が吉弘さんに助言する立場になり、今は私が村田さんにお世話になっています。こうやって京都では代々よい人間関係が続いて、日本料理が受け継がれてきたのだと感じています。

南禅寺 瓢亭 日比谷店

子供の頃、父が上京する際について行って、評判のフランス料理店で食事をしたのも印象に残っています。父と行くのはだいたいフランス料理なのですが、和食とは味の構成や盛り付けの自由度がまったく違うので、勉強になりますね。

時間を見つけて親しむ茶道

茶懐石を出していることもあり、お茶は瓢亭で働き始めてからずっと続けています。昔は先生について全国大会のお手伝いに行ったりもしていたのですが、最近は時間がなくて稽古に行くのが精一杯。一服したい時、コーヒーの代わりにお抹茶を飲むのも好きですね。京都では何かとお菓子を頂くので、お茶請けには事欠きません。

南禅寺 瓢亭 日比谷店、茶器

日比谷店にも茶室があって、今度、初めてお茶会をするんですよ。スタッフにも今後もっと稽古を受けてもらう機会が作れたらな、と思っています。器や道具はもともと好きで、京都では京焼が主流ですが、最近は志野や織部などの土ものも面白くて好きですね。今回ご紹介しているのは、織部焼の瀧川恵美子さん(右)、志野焼の加藤亮太郎さん(左)、信楽焼の辻村塊さん(奥)の作品です。この他、器は京都の店でもともと使っていたものや新しく作ってもらったものなどをいろいろとそろえて、東京と京都で替えています。

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