あえて「4000」と表記
2018年の12月にオープンした「4000 Chinese Restaurant 南青山」。店名の「4000」は「ヨンセン」と読む。そしてそれは「シセン」とも読める。
店主は菰田欣也氏。長年にわたり四川料理の普及に従事してきた料理人だ。その菰田氏は、独立して構えた自店にあえて漢字で「四川」と表記せず、「4000」とした。「あまり強く”四川料理„と主張させたくなかったから」なのだという。
そう考える大きな理由は、今の菰田氏の心境にある。「この店のテーマは、”自分の出身は四川。そして今は東京で自分の料理を作っている„。これが今の私です」という。
四川そのままではなく、今、目の前にいる東京の、そして日本のお客に向けた料理を追求する。
「四川の伝統料理に対する敬意はあります。しかしここは日本。料理人が間にフィルターとして入って、どのように提案するかが大事。提案の仕方を間違えてしまうと受け入れてもらえません」
徳島県産阿波尾鶏のもも肉四川の香り炒め
今回紹介した「徳島県産阿波尾鶏のもも肉四川の香り炒め」は、そんな菰田氏の考えをよく現している一品だ。この料理は、強い旨みを持つ徳島の銘柄鶏「阿波尾鶏」のもも肉を唐揚げに近い調理法で仕立て、四川省産の2種類のトウガラシ「朝天辣椒」と「満天星」とともに炒めてしっかりと辛さをまとわせたもの。
四川省重慶の伝統料理「辣子鶏(ラーズーチー)」をもとにしているが、「現地の辣子鶏は、鶏肉をピーナッツほどの小ささに切り、素揚げして、大量のトウガラシで思いきり激辛に仕上げます。でもそれでは、まず日本人には辛すぎる。花椒の痺(しび)れも強すぎる。なので、ちょうどよい加減に調整しています」と菰田氏。
「それと、日本人は鶏肉の唐揚げが大好き。衣のサクッとした中にジューシーな身があるあの感じを、この料理では取り入れました」。現地の伝統料理にはヒントがいっぱいだが、そのままなぞることはしない。「日本人の味覚に合った形に落とし込まないと、日本人である自分がこの地で料理をやる意味がない」というのが菰田氏の考えだ。