シチリアを、身をもって示す

日本でシチリア料理といえば、「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」の石川勉氏。スタッフ同士の掛け声も心地よい、活気あふれる店。肩ひじ張らず、腹の底からおいしいと思える本場の香りの料理。この店ではまさにシチリアの“心”を体験できる。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

日本でシチリア料理といえば、「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」の石川勉氏。スタッフ同士の掛け声も心地よい、活気あふれる店。肩ひじ張らず、腹の底からおいしいと思える本場の香りの料理。この店ではまさにシチリアの“心”を体験できる。

アラブの香りと生きのいい素材、シチリアの食

シチリアは歴史上、いろいろな民族が支配してきた島。ギリシャ、ローマにはじまり、アラブ、スペインも。とくにアラブ人がもたらしたナッツや柑橘類はシチリア料理に欠かせません。

あとは、地元で獲れるマグロ、カジキ、イワシなどの青魚も、とてもシチリアらしい食材です。

今回紹介した2品も、まさにシチリアそのものという皿。パスタ(3ページ目)は、魚介と合わせるのが定番の、幅広のパッケリというパスタを用い、ヤリイカ、ズッキーニ、セミドライトマト、ピスタチオのペーストとともに仕立てました。砕いたピスタチオ、すりおろしたマグロのカラスミをかけて仕上げます。

ピスタチオやマグロのカラスミは、シチリア名産。パッケリを噛み締めながら食べると、ヤリイカの旨み、トマトの酸味、ピスタチオのコクと風味が次々に感じられる、深みのある一皿です。

次ページは、分厚く切ったカジキマグロをソテーし、トマト、松の実、干しぶどう、オリーブ、ケイパーを合わせた「ザ・シチリア」なソースをのせ、オーブンで焼き上げたもの。

「アグロドルチェ」つまり甘酢味は、シチリア王道の味わい。ふっくらと仕上がった香り高いカジキマグロとともに食べていただきます。

35年通っても、全然飽きない

シチリアには今も年に1~2回行っていて、もう35年も行き続けているのですが、全然飽きない! むしろ行くたびに発見がある。シチリアは四国の1.4倍ほどあり、高い山、個性的な海岸、小さな島もある。行ったことのない土地、食べたことのない料理がまだまだあります。

最初に修業した店のシェフやスタッフとは家族のような付き合いで、行くたびにいろいろな情報をくれたり、案内したり、人を繋いでくれたり、本当によくしてくれます。

縁あって、貴族の人の家の食事会に行ったこともありました。見たことのない料理が並び、歴史の中で脈々と生きている文化の深さに驚いたものです。

トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ。店に飾っているサッカーチームのグッズ

とにかくシチリアが大好きで。応援しているサッカーチームも、パレルモが本拠の「チッタ・ディ・パレルモ」。ピンクと黒がクラブカラーで、写真は店に飾っているそのグッズ。自分で買ったり、いただいたりで、増える一方です(笑)。

コックコートより、Tシャツが性に合っている

料理の道に入ったきっかけは、フレンチのシェフの背の高いコック帽への憧れです。Tシャツスタイルの今とは正反対ですが(笑)。

ひょんなことからイタリアンの「ラ・パタータ」に入って、のちに「クチーナ・ヒラタ」を開業する平田勝さんのもとで働くうちに、どんどんイタリアンに惹かれるように……。

そして3~4年後に初めてイタリアへ。主要都市を回る35日間の長い旅でしたが、最初の地、ローマで完全にはまった。街を歩いていて、レストランの前で仕込みの匂い(ニンニクやトマトを焼いたり煮たりする匂い)を嗅いで、「あ、パタータと同じ匂い!」と。これがイタリア料理だ、と確認できてますます好きになりました。

その後いったん帰国し、資金をためてからシチリアに行きました。84年のことです。当時、ローマ以南は治安が悪いので行くなと言われていたのですが、どうせ行くなら日本人が誰も行っていない場所に、と。日本人はおろか、アジア人も珍しい土地。

シチリア人も最初はなかなかよそ者を信用しないので、打ち解けるまでに時間はかかりましたが、一度入り込むと家族のように温かく迎え入れ、面倒を見てくれる。そんな人情の厚い人たちに助けられながら1年間の修業期間を過ごしました。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。