蘇る老四川

四川料理への熱い思いを一貫して抱き続ける、「中國菜 老四川 飄香」の井桁良樹氏。2005年の独立開業以来、「現代に蘇る老四川(古き良き四川)」をテーマに、四川現地の風味を豊かに感じる料理を作り続けている。2012年に店を麻布十番に移転してからは、空間全体で優雅な時間を演出。より深い「四川の体験」をお客に届けている。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

四川料理への熱い思いを一貫して抱き続ける、「中國菜 老四川 飄香」の井桁良樹氏。2005年の独立開業以来、「現代に蘇る老四川(古き良き四川)」をテーマに、四川現地の風味を豊かに感じる料理を作り続けている。2012年に店を麻布十番に移転してからは、空間全体で優雅な時間を演出。より深い「四川の体験」をお客に届けている。

四川の伝統的宴席料理を極める

「絹笠茸(きぬがさたけ)・アミガサ茸・香茸(こうたけ)・冠地どり白レバー・ミニ白菜」(次ページ)は、中国料理の極上スープ「清湯(チンタン)」に、地鶏の白レバーをごくなめらかにすり潰(つぶ)して茶碗蒸し状にゆるく固めたものを浮かべた料理です。

清湯は、丸鶏ベースのスープで豚肉、鶏肉、金華ハム、干し貝柱を煮て濃厚なスープをとり、さらにそこに鶏挽肉を加えて澄ませるとともに旨み補強、白菜も煮て甘みを引き出します。

この清湯に3種類のキノコを組み合わせ、最近四川でもポピュラーになり始めた人工栽培の冬虫夏草を浮かべました。非常に澄んだ味わいで、かつ、上質な旨みにあふれる一品。宴席を飾る格調高さ、深い味わいを備えながら、薬効も期待できる。究極の「医食同源」の料理です。

「ナマコ・豚レバー・蕎麦(そば)の実」は、下処理したナマコと豚レバーを、豚小腸の脂でじっくり長時間煮たもの。一見不思議な組み合わせですが、四川の伝統料理です。非常にコク豊かに仕上がります。
ソースのベースは、骨と皮付きの豚もも肉でとったスープで、鶏肉、干し牡蠣(かき)、昆布、スルメなどを煮出してとる、旨みをぎゅっと集めたもの。複雑な味わい、なめらかな食感を存分に楽しんでいただきます。

師匠にもらった包丁。やや大きめで使いやすい

この包丁は、私が修業を開始した千葉の四川料理店「岷江」の主人、斎藤文夫さんからいただいたものです。岷江での8年間の修業を終えた時に、記念にいただきました。以来、大切に使い続けている、私にとってなくてはならない道具です。

中華菜・老四川 飄香、包丁

斎藤文夫さんは、新橋の田村町にあった四川飯店で10年以上経験を重ねた料理人です。「田村町の四川飯店」といえば一時代を築いた名店で、多くの優秀な料理人を輩出した場。そんな経験を持つ人に教わることができ、とても嬉しく、光栄に思って仕事にあたっていました。

これは中華包丁の有名メーカーである「杉本」製ですが、今あるサイズより少し長いんです。それが私にとって使いやすい。綺麗なスナップを利かせることができ、刃も大きく使える。愛着もひとしおです。

去年、四川省成都の「松雲澤」に弟子入り

「伝統的四川料理を継承する」ことが私の使命です。誰に言われたわけではありませんが、それくらい、私は四川の伝統料理が好きなのです。なので、昨年、四川省成都にて“松雲門派”に弟子入りできたのは、私にとって心から嬉しい出来事でした。

松雲門派は、私も数年前まで存在を知っているわけではありませんでした。知るきっかけとなったのが、当店に食事に来られた四川省の方に、「四川のいいレストランを教えてください」と聞いたこと。彼が成都の「松雲澤」を紹介してくれ、早速食事に訪れたら、今回紹介したナマコの料理など、「古い料理書で読んだけど、実物は見たことがない」というような品が、いくつも登場したのです。

不思議に思いながら、店内の備品などをよく見たところ、どうやら、四川料理の源流を作った名店にして今はなき「栄楽園」の系譜を引くらしい、とわかりました。その後、一度は帰国したのですが、「絶対にここで修業したい!」と頼み込み、一定期間、厨房(ちゅうぼう)で修業。弟子入りを認める儀式を経て「中国川菜松雲門派技藝傳承人」となりました。現地の正統を継ぐ一派から認められたことで、自分が今まで学んできたことが間違いでなかった、と実感。料理人人生の中でも、忘れられない出来事になりそうです。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。