心身を満たしてくれる料理
表面はカリカリだが、かむとジューシーな肉汁に口中が満たされる。柔らかく、肉の旨みが詰まった“十勝田くぼ牛”の薪焼きには、食べた瞬間に人をとりこにする魅力がある。
「原始時代から、火のあるところに人が集まってきたでしょう。目の前の火で焼きたての肉には、やはり力があるんだと思います」とオーナーシェフの田窪大祐氏は言う。
蓋(ふた)のない開放暖炉を使っているため、空気に触れさせながら木にストレスをかけずに熾火が作れる。うまく仕上がった熾火は、高温でもホカホカと穏やかで、肉を慈しむように焼き上げる。
火と肉にこだわったら、あとは愛をもって調理するだけ。気負わず、飾らず、率直な田窪氏の姿勢が、そのまま表れたストレートな味わいだ。
愛媛県今治市で生まれ、子どもの頃から料理好き。大阪の調理師専門学校に入り、在学中にイタリアンに目覚めた。最初は松山の店に勤めたが、本で見た日髙良実シェフの洗練された料理に愕然(がくぜん)とし、上京。田窪氏の料理哲学の9割を作ったのは、当時、広尾にあった「アロマフレスカ」のシェフ、原田慎次氏だ。