運命に愛される男

世界で最も予約の取れないレストランといわれたスペインの「エル・ブリ」で研鑽を積み、茶懐石を取り入れた独自の創作料理で国内外の人々を魅了する山田チカラ氏。「エル・ブリ」のフェラン・アドリア氏を始め、運命と数々の出会いを味方につけ、枠にとらわれない快進撃を続ける山田氏の活躍から目が離せない。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

世界で最も予約の取れないレストランといわれたスペインの「エル・ブリ」で研鑽を積み、茶懐石を取り入れた独自の創作料理で国内外の人々を魅了する山田チカラ氏。「エル・ブリ」のフェラン・アドリア氏を始め、運命と数々の出会いを味方につけ、枠にとらわれない快進撃を続ける山田氏の活躍から目が離せない。

作家ものの陶器が好きです

店にはダイニングの他に茶室を用意していて、食後にお茶のおもてなしをしています。茶器は今、山口県萩市の濱中史朗(はまなかしろう)さんの作品が多いですね。お父様は有名な萩焼の窯元なのですが、本人は長髪に革ジャンのスタイルで、人骨の美しさにインスピレーションを得て独自の作品を作っている。作品だけではなく、その寡黙な人柄にも引かれて、茶器だけでなく料理の器もこちらのイメージを伝えてオリジナルで作ってもらっています。

山田チカラ、山口県萩市の濱中史朗氏の茶器

静岡県の出身で、僕の祖父母は茶農家だったので、お茶は昔から身近な存在でした。
でも、本格的な茶道や茶懐石を知って衝撃を受け、料理にも取り入れるようになったのは、修業でスペインに行き、帰国した後のこと。スペイン料理やフランス料理などのジャンルにとらわれない料理に茶懐石を取り入れた、自分のスタイルとして定着させるようになったのも、自分の中では自然なことでしたね。

祖父母の茶農家はいとこが継いだのですが、実は昨年、弟とお茶の販売会社を立ち上げました。お茶は複数の産地をブレンドして販売するのが一般的なのですが、コーヒーでいうシングルオリジン、単一の産地のお茶として販売しています。今、東急電鉄の「ザ ロイヤル エクスプレス」の料理を監修しているので、そこでお出ししたり、機内食を担当しているJALでは料理用のお茶として使わせてもらったりしています。海外でも購入していただけますよ!

ハワイ、ニューヨーク、バルセロナに出店

昨年、ハワイのホノルルとニューヨークに新しく店をオープンしました(「山田チカラ ホノルル」、「山田チカラ ニューヨーク」)。今年4月には、バルセロナにも店をオープンする予定です。

コンセプトはすべて違っていて、ハワイはハンバーグやカレー、コロッケなどもある洋食。かつて日本のデパートに必ずあったレストランのように、老若男女誰もが好きなメニューがある店にしたかったんですよ、ハワイにはそういう店がないので。

ニューヨークは串揚げがベースの創作料理です。おまかせのコースで、カジュアルな食材から高級食材まで幅広くお出ししています。

バルセロナは蕎麦。最近、スペイン北部のワインを造っている地で、蕎麦が栽培されているのです。それを使って蕎麦職人が手打ちします。もちろん、普通の蕎麦だけでなく、創作もしていこうと考えています。バルセロナはかつて修業した地なので、思い入れはありますね。各店、食材は現地のものの他、魚などは豊洲市場で仕入れて空輸もします。

山田チカラ

もともとジャンルにとらわれない料理なので、お客様のブログなどではハワイの店も「和食」といわれたりしているのですが、お客様が喜んでいただければそれでいいと思っているので、気にしていません(笑)。私自身は3カ月に1度各店を回り、メニューやサービスをチェックしたり、新メニューを作って指導したりしています。慌ただしいですが、充実していますね。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。