「それからは大変でしたよ。早朝から夜中まで仕事漬けだし、調理師学校も出ていないから、年下の先輩たちにはものすごくしごかれて。でも負けず嫌いなので一人一人追い抜いていって(笑)、5年で2番手になりました。辞めようとしたこともありますが、叔母に『逃げるの?』と言われ、踏み留まりました」
その後、誘われた「ブラッセリーヴェラ」のシェフを1年半務め、3カ月先まで予約の取れない人気店へと押し上げた。そして、初台に「レストランキノシタ」を開業する。「貧乏人の小せがれなので、失敗するわけにはいかない。保証人になってくれた親に迷惑をかけないよう、絶対うまくいかせようと無我夢中でした」と振り返る。
「ここ10年で、ようやくこの仕事は幸せのお手伝いだと思うようになりました。心を込めて、それが相手に伝わってこそ、特別感が生まれます。店は人生そのものですね」
青山「ラ・ブランシュ」の田代和久氏が憧れ。「今も市場でばったり会うと緊張しますよ」と、少年のように笑う。進化し続けるスープ・ド・ポワソンのように、料理人・木下和彦もさらなる進化を遂げていく。
木下和彦
1959年福岡県生まれ。1989年、30歳でフランス料理店「レ・シュー」に勤め、料理人になることを決意。「ブラッセリーヴェラ」のシェフを経て、1997年東京・初台に「レストランキノシタ」をオープン。2002年に代々木に移転。
●レストランキノシタ
東京都渋谷区代々木3-37-1
エステートビル1F
TEL 050-5487-0443
gfuh200.gorp.jp
※『Nile’s NILE』2019年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています