秋茄子の季節 1 旅を始めたフランス料理

六本木の大通りから一本入った静かな場所にあるフランス料理店「ル スプートニク」。オーナーシェフの髙橋雄二郎氏の作る料理は、伝統に基づくブレない味と、独自性を併せ持つのが特徴。今回は皮の色素ナスニンに抗酸化作用があるなすを用いた季節の料理と、スペシャリテの鹿の料理を紹介してくれた。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

六本木の大通りから一本入った静かな場所にあるフランス料理店「ル スプートニク」。オーナーシェフの髙橋雄二郎氏の作る料理は、伝統に基づくブレない味と、独自性を併せ持つのが特徴。今回は皮の色素ナスニンに抗酸化作用があるなすを用いた季節の料理と、スペシャリテの鹿の料理を紹介してくれた。

ル スプートニク。緑なす、万願寺唐辛子、紫唐辛子は直火て強く焼き、味を凝縮するとともに香ばしさをプラス
緑なす、万願寺唐辛子、紫唐辛子は直火て強く焼き、味を凝縮するとともに香ばしさをプラス。
「野菜中心のグリーンカレーをイメージした料理」と話すように、ハーブやココナツミルクを使ったソースがエキゾチックな印象。

髙橋雄二郎氏が「ル スプートニク」をオープンしたのは約6年半前。

「自店をオープンする時、誰もが自分の料理の方向性をしっかりと定めるものです。そしてそこでは、“料理の道に入った時に何に憧れていたか”が重要になると思っています。私の場合それは、独創的な料理でした」

髙橋氏は学生時代、テレビの『料理の鉄人』に見入っていたという。
「番組に出ているシェフは、みなさん、自分の料理で勝負している。それがとてもかっこよく、自分もこうした道に進みたいと思ったのです」

髙橋氏が料理界に足を踏み入れたのは大学を卒業し、調理師学校に入った時だ。

「両親は共働きかつ食べることが大好きなので、小さい頃から外食が多かった。地元福岡のすし店を始め、山口にアユを、佐賀にコイを食べに行く。そんな中、私も自然と食べるのが好きになりました」

また、調理師学校で学んでいた時から、「海外生活のない人生を送ると、絶対に後悔する」と海外志向が強かった。かつ歴史が好きだったので「歴史で学ぶことの多そう」なフランス料理を選んだ。

そんな髙橋氏は、調理師学校を卒業後、都内での修業を経て渡仏。3年間過ごしたパリでは三ツ星「ルドワイヤン」、ビストロ「ラミジャン」、ブーランジェリー「メゾンカイザー」、パティスリー「パン・ド・シュクル」と、各ジャンルの一流店で修業。

帰国後はオー・グー・ドゥ・ジュールグループに入り、じきに「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」のシェフに就任する。この時期から独創的な料理で高い注目と評価を獲得。同店で6年間勤め上げ、「ル スプートニク」を2015年に開業した。

「オープン当初から、独自性や遊び心のある料理を多皿で提供しています」
ただし変わった点もある。最初はフランス料理にベースを置くことを大事にし、日本の調味料にはいっさい手を出さなかった。

「でも3年ほど前から、自由になりました。メキシコ風、中華風などの料理を作る場面もありますよ」。実に大きな変化だ。「何を使っても“自分の料理”になるとわかってきたのです」

店名の「ル スプートニク」は「旅の伴侶」という意味のフランス語。「コースを通じて旅していただく。最近はそんな傾向が強まっています」

  • ル スプートニク、店内
    店内は温もりとスタイリッシュさが調和する空間。ルイスポールセンの照明がアクセント。
  • ル スプートニク、緑なす、万願寺唐辛子、紫唐辛子
    能登の「NOTO高農園」の有機野菜を積極的に使う。写真は緑なす、万願寺唐辛子、紫唐辛子。
1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。