独自の世界を深め続ける
モダンスパニッシュを真摯に追求する店、「スリオラ」。2011年に麻布にオープンし、15年に銀座に移転した。その料理は、技術的、感覚的に研ぎ澄まされていながらも、どこかホッとするぬくもりのニュアンスや、スペインの食のおおらかさも備えているのが特徴だ。
オーナーシェフの本多誠一氏はもともとフランス料理の修業を現地で重ねていたが、食事に訪れたスペインのサンセバスチャンで、同地の食の豊かさに夢中になった。
早速、昔ながらの郷土料理を提供するサンセバスチャンのレストラン、「カーサ・ウロラ」を懇意にしていた食材業者に紹介してもらい、ここで4年間働いた。
エル・ブジの新しい料理が台頭していたものの、「当時はまだ“ガストロノミーの本道はフランス料理にある”という意識が強かった。フランスからスペインに移った時、正直、周りの日本人の料理人たちからは低く見られたんです」と振り返る本多氏。
「それでも、自分が60歳になった時、作っていたいのはどちらか? と考えたら、スペイン料理だった。進路の迷いは消えました」
本多氏が作り出すのは、スペインの食材を生かしながら考案したオリジナルの料理と、スペインの郷土料理をベースにした料理。いずれも繊細に、緻密に作り上げる。
例えば、なめらかに乳化させたフォアグラの料理では、コクと香りを残しながらスルッと舌をすべり抜けるフォアグラの仕上がりは、まさに洗練の味わい。これに、深く繊細な甘みを持つペドロヒメネス(シェリー酒の一種)のゼリーを組み合わせた。エビの出汁で仕立てた米料理アロス・カルドーソも、郷土料理そのもののしみじみとした風味を備えながら、細部まで完成度を追求してこそ生まれる明快なインパクトと、すっきりとしたキレを感じさせる。
今年の4月で、オープンから9年目に入るスリオラ。スペイン料理に対する本多氏の深く温かい思い、そして表現の高みを目指す強い意志が一体となった料理は、ますます磨きがかかる。独自の世界を深め続けるその進化から、目が離せない。
本多誠一
1976年千葉県生まれ。フランスの地方やスイスで5年間修業後、スペイン・サンセバスチャン「カーサ・ウロラ」で4年間働き、2年間はシェフを務める。帰国後は「日本料理 龍吟」「サンパウ」スーシェフを経て2011年独立開業。
●ZURRIOLA(スリオラ)
東京都中央区銀座6-8-7
交詢ビル4F
TEL 03-3289-5331
zurriola.jp
※『Nile’s NILE』2019年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています