洗練に、おおらかさを込めて

モダンスパニッシュを代表する「スリオラ」は、バスクの食に魅せられたオーナーシェフ、本多誠一氏による店だ。4年前に麻布十番から銀座に移転。研ぎ澄まされた洗練と、スペインらしいぬくもりを併せ持つ料理を、一流が集まる銀座の地で追求する。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

モダンスパニッシュを代表する「スリオラ」は、バスクの食に魅せられたオーナーシェフ、本多誠一氏による店だ。4年前に麻布十番から銀座に移転。研ぎ澄まされた洗練と、スペインらしいぬくもりを併せ持つ料理を、一流が集まる銀座の地で追求する。

スペインの食の豊かさを、どう表現するか

スペインの郷土料理も、現代の技術を生かして自分で考えた料理も、両方が私にとって大切な存在です。今回紹介したフォアグラの一品(次ページ)は、私自身の料理。なめらかに乳化させたフォアグラを器に入れ、上に、シェリーの一種であるペドロヒメネスのゼリーを薄く流しています。

ペドロヒメネスは、糖分が凝縮するまで木で熟させ、それを天日干ししたペドロヒメネス種の葡萄で造る、凝縮感、複雑で洗練された甘みとレーズンのような香りが印象的なお酒。「これこそ世界で一番フォアグラに合うお酒!」と個人的に思っているほど好きな組み合わせです。

一方のお米とエビの料理(次ページ)は、伝統的な品です。スペインの米料理にはおおまかに3種あり、汁の多い「アロス・カルドーソ」、リゾット状の「アロス・メローソ」、水分の少ない「アロス・パエリヤ」となりますが、これはカルドーソ。

エビを、エビの出汁、それを吸った米とともにスプーンで一緒にすくって、複合味を楽しんでいただきます。出汁は、旨み濃厚でありながらキレよく仕立てるなど、技術と手間をかけてレストランの味にしていますが、ベースは素朴な伝統料理。盤石のおいしさを持つ伝統料理が多くあるのが、スペイン料理の魅力です。

若いうちに、圧倒的においしい料理を食べてほしい

私の修業の入り口は、フランス料理。21歳で渡仏して、地方やスイスの三つ星店、二つ星店などで5年ほど学びました。

その後スペイン料理に変更するのですが、若いうちにフランスに行ってよかったと思うのは、本当においしい三つ星の料理を25歳より前に食べられたこと。若い、まだ知識が入り込み過ぎない時期に「何なんだ!」と思うほど圧倒的な料理をある程度の回数食べるのは、料理人にとって非常に大事だと思います。

自分で言えば、例えば、若い頃食べた、ポール・ボキューズの「舌平目のフェルナン・ポワン風」の衝撃は今でも忘れられません。
なので、若い子には「本当にいい料理で、かつ、主役のはっきりとわかる料理を、借金をしてでも食べておいたほうがいい」と言っています。

世の中には盤石で桁違に旨い料理があり、そうしたストレートなおいしさで自分の味覚のキャンバスにしっかりと下塗りを作っておく感じです。一定の経験を重ねれば、モダンな技術は調べればわかるし、すぐに自分のものにできます。

でも、若い頃に受けるおいしさの衝撃は、その時だからこそのもの。知識があると、分析してしまうんですよね。そんなフィルターなしに、25歳、遅くても30歳前に体験してほしい、と話しています。

誰もが知る食材で、最上の味を作りたい

今、料理以外の楽しみといえば、日本全国を旅行すること。食材と絡めた旅ですが、食材を探しに行くというより、食材を理由にあちこちに行っている感じです。普通に生活していてはまず行くことのない場所を訪ねられるのがいいですね。

昨年は四国4県を制覇したのが印象に残っています。
高知県では、スナップエンドウの生産者の土居さんに会いに南国市に行きました。土居さんは、雑誌で私の料理を見て連絡をくれたのがきっかけで知り合いに。友人の店や、他のレストランに食べに行って気になった食材があれば生産者を教えてもらい、会いに行くことも多いです。

高知県南国市の土居さんが作ったスナップエンドウ

食材といえば、今特にがんばっているのが、誰もが知っている食材で最高のものを手に入れ、それを最高に料理すること。例えばイワシでも、「こんなにおいしいんだ!」と感じていただける料理が理想。高級食材の特別感ではなく、普段の食材の格別な味を追求したい。それが今のテーマです。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。