自然体の歩み

昨年開業10周年を迎えたイタリア料理店「モンド」。自由が丘の静かな住宅地の一角に、オーナーシェフ宮木康彦氏の料理、ソムリエ田村理宏氏のサービスを求めお客が集う。そこには、心の込もった料理を核に作り出される、温かい時間が流れている。

Photo Masahiro Goda$emsp; Text Izumi Shibata

昨年開業10周年を迎えたイタリア料理店「モンド」。自由が丘の静かな住宅地の一角に、オーナーシェフ宮木康彦氏の料理、ソムリエ田村理宏氏のサービスを求めお客が集う。そこには、心の込もった料理を核に作り出される、温かい時間が流れている。

モンド、焦がし小麦の粉を用いたオレキエッテを季節の野菜とともにゆでた、シンプルな一皿
焦がし小麦の粉を用いたオレキエッテを季節の野菜とともにゆでた、シンプルな一皿。焦がし小麦は、イタリア南部プーリア州で伝統的な粉。香ばしく、しみじみとした独特の風味が魅力で、イタリアの友人から粉を取り寄せている。

コースをお客全員で一斉に進める「イッセイノセーの会」

自由が丘の閑静な住宅街に、ひっそりとたたずむ「モンド」。オープンから10年を経た今、オーナーシェフ、宮木康彦氏の料理はますますシンプルになっている。
食材の風味がみずみずしく生き、イタリア料理らしいぬくもりと、モダンな感覚が自然に調和。過度な主張やてらいは一切ない。
「郷土料理をベースにしつつも枠は設けず、自分がおいしいと思う感覚を大切にしています」と話す。

そんな宮木氏の根幹にあるのは、「人に食事を作るのは、義務でもないし、作業でもない。気持ちを込めて作るのが何よりも大切」という思いだ。

宮木氏がこのことを実感したのは、イタリアの北部、トレンティーノ・アルト・アディジェ州のリストランテ「オベラウト」での修業時代。

「抜群においしい郷土料理を作るこの店に、“マメ”というおばあちゃん料理人がいたのですが、彼女が本当にすばらしくて。まかないも、お客様への料理も、家族への料理も、全部同じ姿勢で取り組むんです。少しもぞんざいにせず、全部に気持ちを込める。そして、どれもがおいしい。『料理を作るって、こういうことだ』と、毎日感動していました」

しかし、「こんなに大事なことなのに、みんな、仕事になると忘れがち」とも。そうならないよう日々意識しながら、料理に向き合う。こうした宮木氏の積み重ねが、気負わず、それでいて深い印象を残す料理を生み出している。

モンド、5種のパンの詰め合わせ
パンは、宮木氏が修業中に各地で学んだ5種を詰め合わせて提供。ハーブやチーズ、オリーブオイルが香り、ワインが進む。デザインが印象的なパンの器は、懇意にしている作家によるもの。

ちなみに、自由が丘駅から徒歩約10分という立地は「イタリアの田舎にある、人がそこを目座して訪れるようなリストランテに近づきたくて。落ち着いた場所で、腰を据えて食事を楽しんでいただきたい」と選んだものだ。

その思いの通り、モンドに集うのは、“料理をしっかりと味わいたい”という目的を持ったお客。加えて、ソムリエの田村理宏氏がサービスとワイン、そして音楽で食事をもり立てる。

オープン10周年の昨年から、週に1度、コースをお客全員で一斉に進める「イッセイノセーの会」を始めた。意欲的に、より豊かな食事の時間の創造に取り組む「モンド」。静かに、しかし確実に進化を続ける。

モンド 宮木康彦氏

宮木康彦
1976年神奈川県生まれ。調理師学校卒業後、「アクアパッツァ」にて約10年間修業。渡伊し、伝統料理の店、気鋭の三つ星店の両方で修業し、郷土料理と最先端のイタリア料理を学ぶ。帰国後、2008年に「モンド」をオープン。

●モンド
東京都目黒区自由が丘3-13-11
TEL 03-3725-6292
ristorante-mondo.com

※『Nile’s NILE』2019年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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