自然体の歩み

昨年開業10周年を迎えたイタリア料理店「モンド」。自由が丘の静かな住宅地の一角に、オーナーシェフ宮木康彦氏の料理、ソムリエ田村理宏氏のサービスを求めお客が集う。そこには、心の込もった料理を核に作り出される、温かい時間が流れている。

Photo Masahiro Goda$emsp; Text Izumi Shibata

昨年開業10周年を迎えたイタリア料理店「モンド」。自由が丘の静かな住宅地の一角に、オーナーシェフ宮木康彦氏の料理、ソムリエ田村理宏氏のサービスを求めお客が集う。そこには、心の込もった料理を核に作り出される、温かい時間が流れている。

スペシャリテのパンと、素朴なプーリアのパスタ

「スペシャリテは?」と聞かれると、5種の自家製パン(次ページ)を紹介することが多いです。パンがスペシャリテ? と思われるかもしれませんが、これは、私が東京とイタリアで教わってきたパンを盛り合わせたもの。強い思い入れがあります。

内容は、北部のトレンティーノ・アルト・アディジェ州で学んだ黒パン、南部プーリアで教わったタラッリーニ、「クチーナ・トキオネーゼ・コジマ」で小嶋正明さんに教わった全粒粉の丸パンなど。ハーブがきいていたりオリーブオイルが練り込んであるなど、風味や食感が変化に富み、ワインともよく合います。

次ページの料理は、プーリア伝統の、焦がし小麦を使ったオレキエッテです。山形の「お日さま農園」から送ってもらう季節の野菜とともにゆで、シンプルにオリーブオイル、カラスミをかけて仕上げます。

プーリアの伝統では野菜をクタクタにゆでますが、ここでは野菜個々の風味をしっかりと生かしたいので、それぞれに見合ったゆで加減とします。

また、野菜の風味や、焦がし小麦独特の香ばしくもふくよかな風味を大事にしたいので、提供温度は熱々よりもやや冷めた頃合いが理想。シンプルですが、しみじみと、そして生き生きとおいしい一皿です。

自分のベースを作ってくれている二人

自分が今こうやって、料理に取り組み続けられているベースは何だろう? と改めて考えたのですが、答えはやはり妻(志穂氏)とソムリエの田村(理宏氏)、この二人の存在に尽きると思います。

モンド

妻とは高校からの付き合いです。遊びすぎで卒業も危なかった私に毎朝電話し、通学を促してくれたり、レストランで働き始め、仕事がキツくてくじけそうな私に「きちんと目的を持って生きろ」と叱咤したり。厳しいんです(笑)。

彼女はヘアメイクの世界で、早くから独立して働いている人。目的意識の持ち方、人としての姿勢を、私は職場から半分、妻から半分教わりました。今も、仕事への集中力や厳しさは彼女にかなわない。心の指針です。

田村は型にはまらず、そして嘘がなく、ワインも料理も心からおいしそうにお客様に伝えてくれます。

なので私も、誰よりも田村に料理をおいしいと言ってもらいたい。彼が納得してくれる料理だったら大丈夫。私の料理を導いてくれる存在です。

週一で「イッセイノセーの会」、始めました!

「自分ができるイタリア料理とは、何だろう」と、オープンからずっと考え続けています。その答えの一つが、2018年8月、店の10周年を機に始めた、毎週火曜の「イッセイノセーの会」です。

これは、お客様に同じタイミングでコースの料理をお出しするスタイルの会。塊で焼いた肉を皆様の前で切り分けたり、パスタをゆであげたり、と、ダイナミックな料理を作ることができます。

肉を塊で焼くと、焦げ気味でカリカリの部分からレアに近い部分まで、いろいろな部分が出来上がりますが、このムラこそがイタリア料理の魅力。そんな原点を楽しむ時間にできれば、と思っています。

モンド、大テーブル

この会を念頭に、大テーブルも特注しました。パズルピースのように入り組んだ形は、お客様のグループ同士が、それぞれが心地よい距離感を保ちつつも場を共有できるよう考えたもの。サービスの田村の力も大きいのですが、ホール全体にほどよい一体感が生まれ、温かな雰囲気になります。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。