前進するレジェンド

1980年代後半に小田原の「ステラマリス」で一世を風靡(ふうび)し、その後パリに同名の店をオープン、ミシュランの星も獲得。さらに日本にも「レストラン タテル ヨシノ」を展開する吉野建氏は、まさにフランス料理界のレジェンド。料理は迫力を保ちながらますます研ぎ澄まされ、かつパワーは尽きることがない。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

1980年代後半に小田原の「ステラマリス」で一世を風靡(ふうび)し、その後パリに同名の店をオープン、ミシュランの星も獲得。さらに日本にも「レストラン タテル ヨシノ」を展開する吉野建氏は、まさにフランス料理界のレジェンド。料理は迫力を保ちながらますます研ぎ澄まされ、かつパワーは尽きることがない。

パリ時代に完成した、20年来のスペシャリテ

今回紹介する2品は、ともに私の冬のスペシャリテ。「ちりめんキャベツ、フォアグラ、黒トリュフのテリーヌ」(次ページ)は、蒸したちりめんキャベツ、フォアグラ、トリュフのスライスを幾重にも重ねて作ります。ミルフィーユ状の美しさ、そしてキャベツの甘み、フォアグラのコク、トリュフの香りが織りなすハーモニーがポイントです。

考案したのは、パリの「ステラマリス」時代。その前に日本で店をやっていた時も近い料理は試作したのですが、「これだ!」と完成したのはパリに渡ってから。やはり、パリでは気持ちが燃える。情熱のスイッチが入ったんでしょう(笑)。

「野うさぎのロワイヤル」(次ページ)は、私がとりわけ誇りに思っている一品です。2000年に、フランスの伝統あるリエーブル・ア・ラ・ロワイヤルの品評会で、ジョエル・ロブション氏とともに最高点を獲得したのです。考案したのは、これもパリの「ステラマリス」時代。野うさぎの肉と内臓を筒状に整形して8時間ほどじっくりと煮込み、それを切り分けてパイ包み焼きにしています。

ソースは煮汁を煮詰め、血とカカオパウダーで仕上げ。パイ包み焼きにするのが私のオリジナルで、野うさぎの煮込み、香ばしいパイ皮、凝縮感のあるソースがこの上ない相性を見せます。

料理で使いたい草や木を育てています

私のモットーは「前進」。パリで念願の自店「ステラマリス」を開いたのが1997年。2003年には東京にも店をオープンし、以降も店を増やしたり、プロデュースを引き受けるなど忙しくしてきました。

2013年にパリの「ステラマリス」を閉店するまでの10年間は、2週間パリ、2週間東京、その合間に監修している和歌山や直島の店、さらに実家の喜界島という具合に旅人のような生活でした。これから出店を含め、まだまだ攻める予定ですし、スタッフを育てることにも力を尽くしています。

レストラン タテル ヨシノ 銀座。育てているハーブ

このような仕事人間ですから趣味はあまりないのですが、最近は植物を育てるのが楽しいですね。ベルベーヌやローリエなどのハーブの他、オリーブ、ネズ、ハシバミなど料理で使える実のなる木の苗木も育てています。

一部は、直島などプロデュースしている店に植え替えて、大きく育てている最中です。いつか、自分の料理で自家栽培したナッツやスパイスを使いたいと思っています。

楽しくてしょうがなかった、若き日のフランス修業

フランスでは27~28歳ごろから5年間ほど修業しましたが、楽しかったですね。もともとは、自分の店を東京で開業する計画を進めていて、「オープン前に本場を見ておこう」という軽い気持ちでフランスに行ったんです。でも三つ星店で食事をしたら、あまりのおいしさにショックを受けて。「日本に帰っている場合じゃない!」と、目が覚めた。

レストラン タテル ヨシノ 銀座。自画像

フランスに残って修業すると即決。仕事は日本での経験があったものの、言葉が全然。最初は猛烈に忙しいビストロに入り、言葉を覚えるところから始めました。数カ月もしたら慣れてきて、実力勝負でステップアップ。
お店もいくつか渡り歩き、貯金しては「トロワグロ」や「ジャマン」などの超一流店の厨房で研修。昔は皆、そうやって三つ星店で学んだものです。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。