ハーモナイズされた料理にこだわる

オープンから8年目を迎える目黒の「ラッセ」。オーナーシェフとして同店の評判を着実に高めてきた村山太一氏は、今、あえて自らは後ろに退いて、実際に店で重要な役割を果たしている渡邊理奈氏をシェフと位置付ける。スタッフ全体が、フラットにつながる店。そんなハーモニーから生まれる料理が、ラッセの魅力として輝く。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

オープンから8年目を迎える目黒の「ラッセ」。オーナーシェフとして同店の評判を着実に高めてきた村山太一氏は、今、あえて自らは後ろに退いて、実際に店で重要な役割を果たしている渡邊理奈氏をシェフと位置付ける。スタッフ全体が、フラットにつながる店。そんなハーモニーから生まれる料理が、ラッセの魅力として輝く。

「ラッセ」4種類のチーズの入ったラビオリ
4種類のチーズの入ったラビオリ。卵黄を極限まで多く練り込んだ生地は、リッチな味わいで柔らかい食感。ツルリ、トロリと口の中で破れ、4種のチーズの風味が溶け合って流れ出す。

成し遂げられる世界があるはず

2011年、目黒にオープンしたラッセ。オーナーシェフの村山太一氏は、北イタリアの老舗の三つ星店「ダル・ペスカトーレ」の女性シェフ、ナディア・サンティーニ氏のもとで副料理長を務めた経験の持ち主とあり、開店当初から大きな注目と期待を集めた。

その期待通り、村山氏は洗練、ぬくもり、料理に対する誠実さが表れた品々を展開。オープンから7年半、変わらぬ情熱で着実な店作りを進める。

そんな村山氏が、「今、この店を実際に回しているのは彼女です」と紹介するのが、渡邊里奈氏だ。

「キッチンの原価コントロールは任せていますし、何より、スタッフを統率するのがずば抜けて上手」

ただし“統率する”といっても、強力なリーダーシップや軍隊のような厳格さを用いるものではない。相手に合わせた注意深い対応で、自然とチームが底上げされてゆくような彼女独特の手法を使う。
「人には皆、得手不得手があります」と渡邊氏。

「まずはできることから任せ、それ以上の向上は自分から必要性を気づくよう、導きます。穏やかに繰り返し言って聞かせたり、励ましたり。そうしたら、数カ月後には必ずできるようになります」

渡邊氏の料理技術にも、村山氏は厚い信頼を寄せる。

「彼女はセンスがいいのと、あと勉強熱心。それが一番大事。気になった店にスッと入り込んで研修できる、そんな人間性も持っています」

「私のモットーは、“平和”です」と笑う渡邊氏。「怒鳴ったり、プレッシャーでつぶれたりしながら料理はしたくない」という渡邊氏に村山氏も同意する。

「競争心や焦りよりも、自分と対峙することの方が断然に成長につながります。そして、落ち着いて自分に対峙できるのは、平和な環境があってこそ。その環境の整備に私たちは力を入れています」

「また、軍隊的な規律がなくては、クオリティーは目指せないのか? そんなことはありません。渡邊が作るチームなら、例えばミシュラン二つ星レベルは近い将来に難なく達成できるでしょう。新しい働き方だからこそ成し遂げられる世界があるはず。彼女がそれを実現してくれると思います」

(右)村山太一氏(左)渡邊理奈氏

村山太一
1975年新潟県生まれ。日本料理を修業後、イタリア料理に転向。渡伊し、「ダル・ペスカトーレ」などで働く。2011年に目黒に「ラッセ」を独立開業。

渡邊理奈
1992年静岡県生まれ。すし店を営む叔父、菓子作りが好きな母親の影響で料理の道へ。高校卒業後、地元の飲食店勤務を経て、2012年よりラッセに。

●ラッセ
東京都目黒区目黒1-4-15
ヴェローナ目黒B1
lasse.jp
2022年8月31日をもちまして閉店しました

※『Nile’s NILE』2019年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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