ハーモナイズされた料理にこだわる

オープンから8年目を迎える目黒の「ラッセ」。オーナーシェフとして同店の評判を着実に高めてきた村山太一氏は、今、あえて自らは後ろに退いて、実際に店で重要な役割を果たしている渡邊理奈氏をシェフと位置付ける。スタッフ全体が、フラットにつながる店。そんなハーモニーから生まれる料理が、ラッセの魅力として輝く。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

オープンから8年目を迎える目黒の「ラッセ」。オーナーシェフとして同店の評判を着実に高めてきた村山太一氏は、今、あえて自らは後ろに退いて、実際に店で重要な役割を果たしている渡邊理奈氏をシェフと位置付ける。スタッフ全体が、フラットにつながる店。そんなハーモニーから生まれる料理が、ラッセの魅力として輝く。

限界まで卵黄を多く練りこんだラビオリ

今回紹介した料理(次ページ)は、「4種のチーズのラビオリ」。当店で長く好評をいただいている一品です。

中に、マスカルポーネ、パルミジャーノ・レッジャーノ、ペコリーノ、ブラータの4種類のチーズを包み込んでいます。

フレッシュでクリーミーなマスカルポーネとブラータ、旨みと凝縮感、香りの強いマスカルポーネとパルミジャーノ・レッジャーノをバランスよく合わせ、奥行きのある味わいを作り出しています。

生地は、卵黄をできるだけ多く混ぜ込んでいるのが特徴です。小麦粉100に対し、卵黄を120ほど入れているので、非常に柔らかい仕上がりに。

普通にパスタマシンにかけるとベタついてしまうのですが、そうならない混ぜ方、扱い方などをこまやかに駆使して、仕立ています。

白いソースは、生クリームにパルミジャーノ・レッジャーノを合わせたもの。シンプルに、チーズのコクを生かしています。

ラビオリの生地が非常に柔らかく、フワリとした食感。ワンタンや小龍包に近いような、スルリとなめらかな舌触りです。この繊細な生地が口の中で生地が破け、中からクリーミーなチーズのソースが溶け出る、という仕立てです。(渡邊)

フラットなチームこそ成長が早い

私はこの店のオーナーシェフとして店を営んで、8年目になります。最初は自分の力でスタッフを率いて……と、いわゆる多くの個人レストランと同様に考えた働き方をしていたのですが、5年ほど前から渡邊(里奈氏)が厨房に入ってから、スタッフとはもっとフラットな関係を作ったほうがよいのでは? と考えるようになりました。

できる仕事はスタッフにどんどん任せ、私は一歩引く。そうすることで、皆が自分で考えて動けるような空気を作る。心がけているのは、「上司からの指示で皆が動く」ではなく、状況を見ながら自発的に動くようなチーム。

「役割分担がされていて、自分の仕事以外はやらない」ではなく、忙しい人がいれば、自然と互いを補うような雰囲気。そのほうが、スタッフは確実に早く成長します。

もちろん、経験の浅いスタッフに対する時など、根気がいる場面もあります。そんな時、以前は「さっさと教えたほうがラク」と思っていたのですが、今は「相手がどうやったら気づくか」を考えることこそ、自分の仕事だと思います。

それが回り回って自分の余裕につながるし、気持ちよく働ける。結果的に、料理のクオリティーも上がります。そんな循環を日々実感しています。(村山)

チェーンストア理論の父、渥美俊一氏の本

2年ほど前から、チェーンストア理論で知られる経営コンサルタント、渥美俊一さんの数々の著書を集中して読むようになりました。

経営的視点、キッチンの体制の効率化、数字の管理というと、個人店では敬遠するどころか、抵抗を感じる人も多いと思います。また、チェーンストア理論は、ファミリーレストランのベースにある考え方。無関係と思っている料理人もいるでしょう。

経営コンサルタント、渥美俊一さんの著書

しかし読み始めると、心に刺さるフレーズがいっぱいです。「なんとなく」で済ませていたスタッフ育成や数字の把握の仕方が明快に理解できました。労働環境の改善の方法も、具体的に見えます。

実際に店の運営に応用したら、一時期は12人もいた従業員が現在は5人なのですが、むしろ労働時間が短く、かつ働きやすくなったとスタッフに言われます。20年スパンで実現したい大きな目標も定まりました。そんなモチベーションの原動力になってくれている本です。(村山)

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。