絶え間なく内省し、自らのあり方を表現につなげる
東京・南青山の根津美術館の近く。静かな、そしてひときわ洗練された店が並ぶ一角に、斎藤智史氏のリストランテ「プリズマ」はある。
広々と厨房まで見渡せる店内には、選び抜いた椅子とテーブル、年代物のスピーカーなどがバランスよく配される。すがすがしく、ほどよいぬくもりも備えた空間だ。料理は、研ぎ澄まされたシンプルさが特徴。「スタッフは入れず、私一人で作っています」と、斎藤氏がすべてを手がけながらも、前菜からデザートまで11~12品、特にデザートは季節によっては約10種から選べるという具合に内容を充実させる。
食材の移り変わりにより料理内容は順次変化するが、いわゆる「シグニチャーメニュー」や「季節の定番」はない。あくまでも料理に向き合い続ける自分の“最新形”が皿に反映すべき、という考えを徹底する。
「今の自分を表現する」、こう語るシェフは少なくない。しかし実際は、どれほどのシェフが「自分」を「表現」できているか。「ほとんどが、コピペなのでは〜」と斎藤氏。大量に流れる写真や情報にのまれ、自分と流行の区別がつかなくなる。
「世界中で、情報を材料に料理が作られている。そんな状況を毛嫌いしています」
では、料理は何を材料に作られるべきなのか? そう問うと、「人生じゃないですか?」との答え。
斎藤氏は、20世紀最高と評される女性バイオリニスト、イダ・ヘンデル氏の「自身の人生観が詰まった、誰の真似でもない演奏」を、表現の理想として挙げる。
絶え間なく内省し、自らのあり方を表現につなげることでのみ、自分の人生を演奏に映すことができる。料理も同じだ。そして「スポーツの一戦必勝じゃないですが、今日の営業をとにかくきちんとやること。そのために他の時間をどう過ごすかがとても大事です」とも話す。
「プリズマ」は、そんな斎藤氏の頭の中が具現化したような存在だ。まさに、斎藤氏が自分と真正面から向き合い、時間をかけながら丁寧に作り上げてきた世界。お客はこの潔い空気と料理に心身を浸すことを楽しみに、繰り返し足を運ぶ。
斎藤智史
1974年北海道生まれ。ロンバルディア州の「ダ・ヴィットリオ」などで2年間経験を積む。2004年「イル リストランテ ネッラ ペルゴラ」を広尾に開業。2011年「プリズマ」を南青山にオープンする。
●プリズマ
東京都港区南青山6-4-6
青山ALLEY1F
TEL 03-3406-3050
※『Nile’s NILE』2019年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています