伝統を踏まえながらヘルシーで、舌においしい料理
日本の中国料理を代表するシェフである、脇屋友詞氏。1996年の「トゥーランドット 游仙境」のオープンで、日本の中国料理シーンは一気に塗り替えられたと言っても過言ではない。
旬の食材をふんだんに使った、創作的かつモダン、しかもおしゃれな雰囲気をまとった中国料理は、脇屋氏のトゥーランドット以前にはなかったものだ。
脇屋氏はもともと赤坂山王飯店、東京ヒルトンホテル、キャピトル東急など、伝統的な中国料理の名門と呼ばれる店でしっかりと修業を重ねた経験の持ち主。とりわけ上海料理への造詣が深い。
そのため、伝統的な中国料理の魅力と長所を十分理解したうえで、現代のお客に合わせた変化を中国料理にもたらすことができた。
脇屋氏がもたらした変化とは、例えば、料理を銘々盛りにする、野菜をたっぷり使う、海鮮の蒸し料理などヘルシーなメニューを前面に出す、デザートに力を入れる、という具合。
その結果、お客から愛され続けるスペシャリテが多く生まれた。マコモダケに牛肉を巻いて甘辛味で煎りつけた「マコモダケの牛ロース巻き」、蒸し料理の仕上げに凍頂烏龍茶をかけ、客前で一気に香り立たせる「海鮮の清香」、ネーミングも秀逸なデザート「とろとろ杏仁」「するする杏仁」などが知られている。
その一方で、伝統的中国料理が持つ骨太な魅力、迫力や深みのある料理もメニューに載せ、「正統を継ぎながら、新機軸を打ち出す」というバランスを実現した。
「お客様に喜んでいただきたい。中国料理の魅力を、多くの人に伝えたい」という一心で新しい試みを続ける姿は、パワフルそのもの。伝統的バックボーンと、旺盛なサービス精神の両方を持つ料理人はまさに最強だ。
「ここ数年、台湾のホテルに技術指導に行くようになったんですよ」と話す脇屋氏。日本人が本場で、中国人に、中国料理を教えるというのは、実に大きな快挙である。
伝統を踏まえながらヘルシーで、現代の人たちの舌においしい料理は、国境も国籍も超えて人気。脇屋氏の活躍は、まだまだ続く。
脇屋友詞
1958年北海道生まれ。赤坂「山王飯店」などで修業。1996年に「トゥーランドット 游仙境」をオープンし、新スタイルの中国料理を展開。2001年に「Wakiya一笑美茶樓」を開業。現在は東京と横浜で4店のオーナーシェフを務める。
●Wakiya一笑美茶樓
東京都港区赤坂6-11-10
TEL 03-5574-8861
www.wakiya.co.jp/restaurants/ichiemi
※『Nile’s NILE』2018年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています