チャレンジを止めない

ジェエリーの名門ブランド、ブルガリのリストランテでエグゼクティブシェフを務めるルカ・ファンティン氏。このリストランテに、「モダンでクリエーティブな、東京を代表するイタリア料理店」という評価を定着させた実力の持ち主である。国内外でエネルギッシュに活躍し、評価と存在感を高めている。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

ジェエリーの名門ブランド、ブルガリのリストランテでエグゼクティブシェフを務めるルカ・ファンティン氏。このリストランテに、「モダンでクリエーティブな、東京を代表するイタリア料理店」という評価を定着させた実力の持ち主である。国内外でエネルギッシュに活躍し、評価と存在感を高めている。

大好きな食材、ウニのスペシャリテ

日本で出合って感銘を受けた食材はいくつもありますが、ウニもその一つです。今回紹介するパスタ(次ページ)は、シェフに就任して間もない頃、ウニに出合って考案した一品です。

イタリアにもウニはありますが、日本のものとは風味がまったく違います。しかも私はイタリアでも北のほうで育ったので、南に産地があるウニとはなじみが薄かった。

ですので、日本でウニに出合った時には非常に感動しましたね。甘みと海の香りに魅せられ、ぜひウニが主役のスペシャリテを作りたいと思ったのです。

この料理のソースは、軽く加熱したウニのほか、ホタテのブロード、魚のブロード、トマトも入っており、乳化させて作ります。ウニの風味を強く感じつつも、味わいに厚みと深みがある仕立てです。
ウニはソースにたっぷりと入れてパスタに絡めるとともに、仕上げに生ウニをトッピング。そこに食感のある塩、レモンの皮のすりおろしをふって完成です。

ウニは、この料理を考案した当時の私にとっては新しい食材。一方、日本の方々にとってはおなじみの食材。取り組むのはちょっとしたチャレンジでしたが、幸いお客様からも好評をいただいて、定番の一品となっています。

ピンセットはチームの証

「今、愛用しているもの」として、パスタ、パスタ用のトング、盛り付け用のピンセットを紹介します。

フェリチェッティ社の「モノグラーノ」シリーズのパスタは、非常に希少な、原種に近い小麦が使われています。味、香り、食感ともに群を抜いてすばらしい。パスタは、鮨におけるシャリのようなもの。一つの素材として重視しています。

パスタ専用のトングは、ボローニャの調理道具専門店で買いました。日本に来る前から使っている、長年の相棒です。先端が丸く、生パスタをつかんでも崩れない、とても使いやすい道具です。

盛り付け用のピンセット(名前入り)

盛り付けでピンセットを使うと、格段に集中力が高まります。この店では必須アイテムで、スタッフ全員に名前入りのピンセットを私から贈っているほど。

新人には、1カ月ほど様子を見て本採用になったら贈ります。名前入りの道具をもらったら、辞めにくいでしょう? それは冗談ですが、ピンセットは、いわば私たちのチームの証しです。

50歳の誕生日で引退が夢!

来年で、日本に来てから10年になります。日本には、今の店のシェフ就任の話をいただいて来ると決めたのですが、長く暮らそうという意識はなく、まずは目の前のチャンスにチャレンジしよう、という気持ちで来ました。

実際に生活してみると、清潔で生活の質も高く、とても過ごしやすいです。ただ、人々のメンタリティーがもっとオープンになるといいのに、と思います。自分の意見をはっきりと言うのを遠慮する気持ちは、イタリア人にはないですから。
日本の暮らしやすさと、イタリア人のオープンな気質が合わさったら、パーフェクトな国だと思います(笑)。

10年暮らす中で、私は結婚して子供も3人授かりました。
日本の人口増加に貢献しているので、国から表彰されてもいいんじゃないかな?(笑) 

仕事が忙しい毎日ですが、朝食を用意して、子供たちを幼稚園に送るのは私の役目。休日に外に遊びに連れて行ったりもしています。それが、最低限で貢献できることですね。

私は来年で40歳になりますが、50歳で引退したい、と思っているんです。
2029年の4月5日。この日が私の50歳の誕生日なのですが、スパッと引退したいですね。長い引退生活が楽しみです(笑)。それまでは、全力で仕事に取り組みます。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。