高知と異国のハイブリッド
それまで下村氏にとっての高知は、なんとなく「海」のイメージが強かった。ところが「地元に根付いている食材を理解したい」とすぐに再訪し、改めて「高知には、山・川・海の織りなす豊かな自然がある」ことに気づいた。そして、その自然のもたらす恵みとしての食材に心が吸い寄せられた。
下村氏は自ら自然の懐に飛び込むように、山・川・海にも足を運び、生産者を含む地元の人たちと交流を重ねながら、料理のアイデアを膨らませていったという。
「サブテーマに『80/20(eighty/twenty)』というコンセプトを設定しました。今回の料理に使う食材はざっくり、県産80%海外産20%で構成してみようと」
「どの地方もそうですが、灯台下暗しと言いますか、地元では日常的すぎて、また郷土料理っぽすぎて、レストランであまり使われない食材がけっこうあるんですよ。でも実はその中に魅力的な食材がたくさんある。そういうものにスポットライトを当てたかった」
「海外の食材については、高知の人って坂本龍馬に象徴されるように、早くから太平洋の向こうの世界を見ていたでしょ? その先進的な心意気を、僕自身がふだんよく使っている海外の食材を合わせることで表現しました。
例えばインドのパニプリという揚げボールのような生地とか、トルコのカダイフ(極細麺)、ブラジルのタピオカチュイル、ドイツ産の極太ホワイトアスパラ、タイのアタップシード、ギリシャヨーグルトなど、個性的な面々をそろえました」
下村氏は、地元の食材を知り抜いている井原シェフから情報をもらい、それに対する料理法の斬新なアイデアを提供するなど、頻繁に密にやりとりをする中で“80/20料理”を創作したそうだ。
「あえて高知のシンボルとも言えるカツオは使わない」と決めた下村氏がメインに“指名”したのは「海のギャング」の異名を取るウツボである。何と4kgの巨体! 身はふっくらと淡泊な味わいで、厚い皮の下にはたっぷりゼラチンを蓄えている。
そのウツボで、梼原町産のイノシシ肉と豚足を巻いて岩に見立て、そこを四万十の川エビがよじ登る様が表現されている。加えてソースには、日本最古の薬効高い葉野菜・潮江菜(うしおえな)を用いた。森を彷彿とさせる鮮やかな緑が美しい。
なるほど見事に高知の山・川・海が凝縮されている。しかもウツボは、フランス産そば粉生地をまとった“ハイカラさん”。「80/20ルール」も生かされている。