独立志向はなく、「料理長になりたいな」と漠然と考えていた高畑均さんだが、あるとき、師匠の言葉に背中を押された。
「自分の店を持つことを目指さなければ、修業で身につくものは少ない」と教えられたのだ。独立の覚悟を固めているのといないのとでは、料理と向き合う“本気度”が違ってくる、ということだろう。
「生き方も含めて、師匠からは本当に多くを教えられました」と言う高畑さんが、今も肝に銘じていることがある。
それは「ずるいことをするな。ごまかすな。嘘をついて得することは何もない。どこから見ても恥ずかしくない仕事をする人間であれ」ということ。
当たり前のことのようだが、それを「ブレない軸」として意識することが大切なのだ。
そうして日々研鑽を積む中で、高畑さんが磨いたものの一つに「中庸」とも称すべき感覚がある。
「例えばキンキを焼くとき、身が反り過ぎないように串を打ちます。それは鮮度の良さを大げさすぎない程度に表現するためです。鮎なんかもそう。
『すでに死んでいることに気づかずに泳いでいる、くらいの表現にとどめなさい』と教わりました。飛び跳ねるような姿を連想できた方が魚の鮮度を強調できますが、そっちに目を奪われて『味わう』という肝心の行為がないがしろになってしまいますからね。どんな料理でも過度な演出は一切排除しています」
「また食材に関しては、産地に偏りが出ないよう心がけています。例えば牛肉なら『メスのA4・A5ランクをお願い』、タイなら『淡路でも愛媛でも、一番生きのいいのを』などと依頼しています。産地を指定しない方が、むしろ上質な食材が手に入ると思うのです。
オープンして以来、信頼関係を築いてきた目ききの業者さんと二人三脚で最高の食材を仕入れています」