絆が距離を縮める

イタリア北部のトレヴィーゾ出身のルカ%#12539;ファンティンさんにとって、「地産地消といえば、私にとっては祖母の作る料理です。家族のための毎日の料理」という。東京で店を構えるファンティンさんが、今、日本で作る地産地消とは。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

イタリア北部のトレヴィーゾ出身のルカ%#12539;ファンティンさんにとって、「地産地消といえば、私にとっては祖母の作る料理です。家族のための毎日の料理」という。東京で店を構えるファンティンさんが、今、日本で作る地産地消とは。

ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン アオリイカとピゼッリの一品。
アオリイカとピゼッリの一品。アオリイカはごく細かい切り込み入り。口の中でほどけ、イカのうまみ、弾力がパッと広がる。小粒のピゼッリは、ソテーしたあと炭火でスモークすることで、つややかな青みと香りをつける。ピゼッリのさやのクリーム、アオリイカの頭や脚を煮て作るソースを合わせ、レモンとミントを香らせて仕上げる。

「こうした生産者の方々とのコミュニケーションと、彼らが手掛ける素晴らしい素材が、私を料理人として成長させてくれました。素材の季節感も私を奮い立たせてくれた。私から彼らに“こんな野菜を作ってほしい”とリクエストし、応じてくれることも。ありがたいことです」

そのうえで「大都会で地産地消を実現するのは、正直難しい」とも。
「でも料理を作る際、私が我を通すのではなく、野菜や魚の季節の味に歩調を合わせることで、産地と自分の距離を限りなく縮められると思っています。文字通り地産地消できる地方とは異なるスタイルですが、これが私の素材との向き合い方です」

日本の流通の発達についても言及する。
「たとえば今日のアオリイカは、昨夜の漁で小田原に揚がったもの。昼過ぎには店に届きました。ピゼッリ(イタリアのグリーンピース)は、千葉の農家が朝に収穫したものを午後に納めてくれる。素材の鮮度という意味では、最大限に地産地消に近づけられていると思います」

今回ファンティンさんが作ったのは、アオリイカとごく若い小粒のピゼッリを組み合わせた一皿。アオリイカに施した細やかな包丁やねかせ具合、ピゼッリへの軽く繊細な火入れは、まさに素材の「今の季節風味」を切り取り、最大に引き出している。

ファンティンさんの料理では、産地からの物理的な距離を超えて素材が実に生き生きと輝く。都心にありながらそれを可能にしているのが、素材に対する心からの誠意と、研ぎ澄まされた感性との出合い。ファンティンさんの姿勢そのものなのだ。

ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン ルカ・ファンティン氏

ルカ・ファンティン
1979年、イタリア・トレヴィーゾ生まれ。料理専門学校を卒業後、ミラノ「オステリア・デル・オルゾ」で研鑽を積む。スペインの二つ星レストラン「アケラッレ」「ムガリッツ」でメイン料理を担当。2006年、ハインツ・ベック氏が率いるローマ「ラ・ペルゴラ」の副料理長に就任。09年9月より銀座「イル・リストランテ」のエグゼクティブシェフを務める。

●ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン
東京都中央区銀座2-7-12 ブルガリ銀座タワー9F
TEL 03-6362-0555
bulgarihotels.com/ja_JP/

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