明快と複雑のバランス

日本料理の伝統と格調を備えながら素材の個性を表現する。同時に「旨い」とうならせる強さも秘めている。それが奥田透氏の料理の特徴だ。今回は「スイカ料理」という変化球のテーマに対し、鮎を組み合わせて応えてくれた。味付けの妙でスイカと鮎を力強く引き立たてた、奥田氏の本領発揮の品である。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

日本料理の伝統と格調を備えながら素材の個性を表現する。同時に「旨い」とうならせる強さも秘めている。それが奥田透氏の料理の特徴だ。今回は「スイカ料理」という変化球のテーマに対し、鮎を組み合わせて応えてくれた。味付けの妙でスイカと鮎を力強く引き立たてた、奥田氏の本領発揮の品である。

西瓜の料理。銀座 小十 奥田透氏
色鮮やかな赤黄のスイカ、フルーツトマト、躍るような姿に揚げた鮎。これらの下には冷やした細うどんが敷いてある。鮎にはスイカ風味の紅蓼酢がかかり、細うどんはスイカ果汁とトマトのエキス、魚醤で作る深い旨みのたれをまとう。さまざまな味わいと食感が楽しい、夏の一品。

二つ目の味付けは、細うどんにからめるタレだ。これは、すりおろしたトマトをゆっくりとペーパーで漉(こ)し、抽出した、トマトの透明なエキスがベース。スイカの果汁を加え、鮎の魚醤(ぎょしょう)で味をつける。

「イメージは“トマト風味のスイカそうめん”。うどんをスイカ味で食べるために、トマトの力を借りました。さらに“鮎つながり”で、味付けには鮎魚醤を使います」

トマトのエキスはフレッシュさがあり、かつ旨みも備えている。ここに、スイカ果汁の清涼感と甘みが重なり、さらに鮎の魚醤の骨太ではっきりとした旨みもプラス。さわやかでありながら、しっかりとした骨格があるこのタレをからめた細うどんは、格別に旨い。

「今回の料理は、小十の料理としては冒険しすぎている(笑)。お客さまにお出しすることを想定はしていませんが、全体にバランスよくまとめることができたと思います」と奥田氏。「私は時折自分の料理の幅を広げるために、普段とは異なる発想で料理を考案することがあります。この品はそんな例の一つです」

カリッとした鮎、シャリシャリしたスイカ、つるりとしたうどん、という食感の違いも印象的。味も、鮎の旨みと苦み、蓼酢の甘辛酸っぱい味、スイカの甘さと爽快感、旨みをまとった細うどん店……という具合に変化に富む。
まるで夏祭りのように楽しくにぎやか、それでいてまとまりがある。ワクワクする夏のごちそうだ。

奥田透 おくだ・とおる氏

奥田透 おくだ・とおる
1969年、静岡県生まれ。高校卒業後、静岡の割烹旅館「喜久屋」、京都「鮎の宿つたや」、徳島「青柳」を経て、99年に静岡に和食店をオープン。2003年に銀座で「小十」を開業。13年にパリ、17年にはニューヨークに出店。『ミシュランガイド東京』では二つ星の評価を得ている。

●銀座 小十
東京都中央区銀座5-4-8
カリオカビル4F
TEL 03-6215-9544
www.kojyu.jp

※『Nile’s NILE』2021年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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