「銀座に店を構えて18年。その中で一番難しいお題をいただきましたよ」と笑う奥田氏。「スイカの料理だなんて、普段は思いつきませんから。でも、そのぶん、挑戦して面白い素材でした」と、考案してくれたのが今回の料理。
カラリと揚げた鮎、スイカ、トマト、冷やした細うどんをともに楽しむ、色鮮やかで夏らしさ満載の一品である。
出発点は、「スイカと鮎」という組み合わせ。「スイカ、といえば鮎の内臓。『鮎の腹はスイカの香りがする』とよく言われます。この二つの素材をベースに考えました」
そして「夏といえば、そうめん(笑)。これを組み合わせたら面白いかな、と」。ただしそうめんは盛り付けたら団子状にくっついてしまう。そこで、細うどんを冷やして盛り付けることにした。
スイカ、揚げた鮎、冷やし細うどん。これでメインとなる素材は出そろった。ここに施されるのが、スイカと鮎の風味を格段に高める、複雑で力強い二つの味付けだ。
まず一つ目の味付けは、鮎にかける「スイカ風味の蓼酢(たです)」。これは、すりつぶした紅蓼をスイカの果汁でのばし、米酢、砂糖で調味した上で、葛でゆるくとろみをつけて作る。ピリッと辛い蓼、米酢と砂糖が作る甘酸味、スイカ果汁が持つ独特の瓜の香り。これらが合わさることで、鮮やかで力強い味と清涼感を併せ持つ蓼酢ができ上がる。
揚げた鮎に、とろりとかかるこの蓼酢。鮎の醍醐味である身の繊細な旨みと内臓の苦みを引き立て、生き生きとした、かつ奥行きのある味わいに仕上げる。