目利きが品定めをしている時は比較的穏やかな時間が流れるが、セリに入った瞬間、場の空気が張り詰める。やがてセリ人(卸業者)の声が響くと、間髪入れずに買受人たちの大きな声が乱れ飛ぶ。みんな、姿勢は前のめり。さまざまに指を立てながら、叫びながら、魚たちがどんどんセリ落とされ、“売約済み”示す紙が投げこまれる。
これは「上げゼリ」といって、値を上げながら一番高い値をつけた人がセリ落とせるという販売方式だ。指は「手やり」と呼ばれ、数字を示すのだが、例えば「同じ数字が並ぶ時は手やりを左右に振る」とか、複雑なルールがあり、ややこしい。だから一連の様子を食い入るように見ていても、そこで何が起きているのかは、まったくわからない。
確かなのは、一つの漁場のセリが「あっという間」に終わり、すぐに買受人たちが次の“セリ場”に走っていく、そのスピードと気迫が「ハンパなくすごい!」ということだけだった。
セリが終わったところで、買受人組合の組合長・古川孝昭氏に話を伺った。興奮の冷めた市場を見渡しながら、「30〜40分で売り切っちゃいますね」と笑う。「値段は一瞬で決まるから、セリ人と買受人のタイミングが合わないと買えない。慣れるまでに最低1年はかかる」そうだ。
「ここ1カ月で漁獲量がだいぶ増えてきましたね。とくにマアジは小田原の代表魚ですから、今日のように、どの漁場でも1トン、2トン獲れると市場全体が活気づきます。今は魚種が豊富な時期ですから、ほかにもワラサやブリ、カマス、トビウオ、ハナダイなど、いいものがたくさん揚がってましたよ」と相好を崩す。
氏によると近年は、温暖化の影響もあって、南方系の魚が増えているとか。「トラフグなんかも増えましたね。親潮に乗ってやって来る魚が多いようです。冬を越せるようになったんでしょう」と言う。
小田原漁港の一番の魅力は、とにかく魚種が豊富なこと。加えて、海岸近くでの定置網漁により、鮮度の高いおいしい魚が水揚げされることも大きなアドバンテージだ。
魚好きの御仁には“小田原漁港詣で”をお勧めしたい。おさかな通りに軒を連ねる鮮魚を扱う魚料理店で食事をしたり、日本初の漁港の駅「TOTOGO小田原」や、毎週土曜日に開かれる「港の朝市」で朝獲れ魚を仕入れたりと、楽しみがいっぱいだ。小田原の魚をもっと身近に感じようではないか。
相模湾・乱舞する朝獲れ魚たち 小田原編
相模湾・乱舞する朝獲れ魚たち 平塚編