料理の美・空間の美

今年の2月、「日本料理かんだ」は開業の地である元麻布から虎ノ門に移転した。新しい店舗は杉本博司さんが主宰する建築設計事務所「新素材研究所」の手によるもので、日本の伝統的な美意識と、モダンな感性が融合されているのが特徴。神田裕行氏が新しい境地に臨むにふさわしい、清々しい空気に満ちている。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

今年の2月、「日本料理かんだ」は開業の地である元麻布から虎ノ門に移転した。新しい店舗は杉本博司さんが主宰する建築設計事務所「新素材研究所」の手によるもので、日本の伝統的な美意識と、モダンな感性が融合されているのが特徴。神田裕行氏が新しい境地に臨むにふさわしい、清々しい空気に満ちている。

「日本料理かんだ」。「伊藤若冲」をテーマとした椀
「料理は絵画に通ずる」は神田さんの料理の命題だ。今回は「伊藤若冲」をテーマとした椀を特別に作っていただいた。
ふたを開けて広がるのは、初夏の鳴門の海の情景。蒸した鮑、蛤、あさりが、素麺で作った渦潮の中に躍る。あさり、酒、昆布でとった出汁は、海のエキスが閉じ込められたような旨みと風味。ここに酢橘をキュッと搾っていただく。
「若冲の世界観は、緻密なディテールの集積で作られています。画面は細部で埋め尽くされる。その点、余白を重視する他の日本画家とは違う」と神田さん。日本料理の椀でも余白のある盛り付けが基本とされるが、神田さんはあえて、具材で椀の中を埋め尽くすように景色を作った。その躍動感は、まさに鳴門の海だ。単に細かいのではなく、細部にまで命が宿る。
一見過剰に思えるが、一つとして無用なものはない。そんな若冲の作品と同様に、この椀はにぎやかで生命力に満ち、かつ余分な飾りがない。まさに「若冲が料理人だったら」という想像をかき立てる一品だ。

今から18年前、2004年に神田裕行さんがオープンした「日本料理かんだ」。当初はカウンター9席と個室1室の小さな規模で、元麻布の閑静な住宅街にひっそりと暖簾を掲げる、さりげないたたずまいであった。

ただしその中で繰り広げられていたのは、実にダイナミックな料理世界。神田さんの確かな技術とセンス、日本料理や日本文化への深い理解に基づいた品々は、国内外の食の経験豊かな人たちを大いに引き付けた。
また、2007年にミシュランが日本に上陸して以来、15年にわたり三つ星を維持する唯一の日本料理店としても名をはせてきた。

そんな「かんだ」が、移転する。設計を担当するのは、かの杉本博司さん。
このうわさが食に興味を持つ人たちの間を駆け抜けた時、大きな期待が巻き起こった。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。