料理の美・空間の美

今年の2月、「日本料理かんだ」は開業の地である元麻布から虎ノ門に移転した。新しい店舗は杉本博司さんが主宰する建築設計事務所「新素材研究所」の手によるもので、日本の伝統的な美意識と、モダンな感性が融合されているのが特徴。神田裕行氏が新しい境地に臨むにふさわしい、清々しい空気に満ちている。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

今年の2月、「日本料理かんだ」は開業の地である元麻布から虎ノ門に移転した。新しい店舗は杉本博司さんが主宰する建築設計事務所「新素材研究所」の手によるもので、日本の伝統的な美意識と、モダンな感性が融合されているのが特徴。神田裕行氏が新しい境地に臨むにふさわしい、清々しい空気に満ちている。

日本料理かんだ。内装には木、石といった自然の素材を取り入れ、それらの質感を最大に生かすデザインに
カウンターと庭が平行に延びる景色は、シンプルさゆえに見る者に与えるインパクトは強い。内装には木、石といった自然の素材を取り入れ、それらの質感を最大に生かすデザインに。庭の緑とよく調和する。

神田さんは日本料理の尊さを理解しながら、それを現代性と融合させて独自の世界を表現することができる料理人。
一方の杉本さんは、日本の伝統文化や古美術を知悉し、日本の美意識に基づく鋭敏な感性を持ちつつ、世界に向けて発信し続けてきたアーティスト。とりわけ写真作品で知られるが、建築の分野による活動も多く、建築設計事務所「新素材研究所」も主宰する。
ジャンルこそ違うが、共通する哲学を持つこの二人が組んで手掛ける新店は、伝統と斬新さを併せ持つものになるに違いない。そんな店の実現が、大いに待ち望まれた。

今年の2月に披露された新しい店は、人々の思いの上を行くものだと言っていいだろう。洗練されたミニマムな、そして日本人のDNAに根ざした自然な世界がつくり出されている。
木、石、土といった天然素材が存在感を発揮しながら同居し、調和する内装。高い天井が生み出す開放的な雰囲気。窓の外には露地を思わせる庭を配置。ウェイティングスペースは茶室に併設された待合のデザインが取り入れられている。
ちなみに店の面積は倍以上になったが、席数は変わらず、カウンター9席と個室1室。贅沢に空間を使った、ゆったりとくつろげる場となった。

カウンター内の壁の一部には、正倉院のものであると伝わる古材が用いられているが、これは杉本さんのコレクションからの品。一方、カウンターに使った木材は奈良の春日杉。神域である春日の山では、木材は伐採できないが、台風などで倒れた木のみ材として用いてよいとされる。その貴重な杉で、美しい木目が印象的なカウンターをつくった。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。