そんな室田氏自身の店であるラチュレもまた、ジビエで知られる店となった。「当初は『自分自身が好きな料理を出そう』と、クラシックをベースに、現代的な軽やかさもある料理で行こうと思っていたのです。その方向性は今も維持していますが、秋冬は必然的にジビエ料理が多くなった。そうしたら、お客さまもそれを期待して店に来てくださるように。夏は夏鹿もありますし、ほぼ通年でジビエを出す店となりました」
なお、室田氏はジビエの料理を追求しながら、日本各地の自治体が進めるジビエの有効活用にも積極的に取り組む。「鹿や猪は年々生息数が増え、農作物を食べるなど農家の方々を困らせる存在となっています。なので駆除は必要ですが、その一方で命を無駄にしてはいけない。また、鹿や猪が増えたのは人間が山の自然を変えたからという説もあります。であるなら、せめて、殺した獣たちの肉をしっかりと食べるのが、人間にできることだと思っています」
そんな考えで、室田氏は定期的に小中高生に食育としてジビエの魅力を伝えている。
「大人はジビエは臭いというイメージを持っていますが、それは質や処理の悪いものを食べたから。なのでそんな先入観のない子供たちにおいしいジビエ、つまり適切に処理、調理したジビエを食べてもらいたい。そうしたら大人になってもジビエを食べてくれるでしょうし、となるとジビエは食材としてもっと広く浸透してくれるはずです」
ジビエが広がることは肉食の多様化、そして持続性にもつながる。ジビエは将来、“冬の風物詩”以上に重要な食材になり得るだろう。