イランをめぐる怪しい結託の影

時代を読む-第13回 原田武夫

時代を読む-第13回 原田武夫

時代を読む――原田武夫 第13回 イランをめぐる怪しい結託の影

「高貴なウソ」という言葉がある。英語ではnoble lieという。米欧において統治エリートが「正しい方向・あるべき姿」と考えるものへ、時には一般大衆に対して公然とウソをついてでも、物事を動かす時に使う言葉だ。「為政者が民衆に対してウソをつく」という構図は、我が国でもしばしば見られる。その限りにおいて、このこと自体は珍しくも何ともない。だが問題は、米欧におけるそれのスケールがはるかに大きいという点にあるのだ。

あまりにも大きなウソをつかれた時、人はもはやそれが「ウソ」とは気付かない。私たち人間は過去の経験からフレームワークを作り、今現在見聞きしている物事(オブジェクト)をその中で「理解」している。したがって社会的な操作を行ってこのフレームワーク自身が私たちの頭の中で変わるように仕向けられるのであれば、そこで捉えられるオブジェクトをあたかも自然な流れの中で生じる「真実」のように思ってしまう。これが現代の「脳科学」の最前線における考え方である。

そして壮大な規模の「高貴なウソ」も、まさにこの「社会的操作」になるというわけなのだ。かつてヒットした米映画『トゥルーマン・ショー』(1998年)ではないが、私たちの生活空間の周り全部が「高貴なウソ」で塗り固められた時、私たちはもはやそれを疑うことができないのである。

もっともそうした「高貴なウソ」にも綻びは生じる。最近、イラン情勢を巡ってそうした綻びが少しだけ見えたことをご存じだろうか。イランは「核開発」を行っており、それが地域覇権を狙っているとして糾弾されている。特に中東における潜在的核保有国のイスラエルはイランのことを蛇蝎の如く嫌っており、些細なことでも論難し、イランも応戦することで舌戦が続いてきているのである。

ところが、である。今年2月になって実は、イスラエルのとある「民間業者」がF4ファントム戦闘機の装備品を、ギリシャ経由でイランに大量販売してきていたことが明らかになったのだ。普段は「仇敵」とされているイランに対して、まさに「敵に塩を送る」以上のことをしていたことが判明していたわけであり、中東、そして米欧において大スキャンダルとなった。

だが、こうした報道を真に受けてしまってはいけないのである。イスラエルは世界最強と言われる対外インテリジェンス機関「モサド」を抱えている。その「モサド」がこうした取引を把握していなかったとは考えにくい。何らかの理由でこうした迂回取引を黙認していたと考えるべきである。

今やあまり知られていない史実であるが、1979年に発生した「イラン革命」より前、イスラエルはイランにとって最大級の経済パートナーであった。テヘランの街にはイスラエル人たちが大勢滞在しており、活発なビジネスを行っていた。それがこの「革命」によって急進的なイスラム化へと舵を切ったイランはイスラエルとの関係を一気に絶ち切り、激怒したイスラエルは、イランを以後「仇敵」とみなし、蛇蝎の如く嫌うようになった、とされている。

だが、本当なのだろうか。――仮にこれが「高貴なウソ」であったとしよう。つまり今回“発覚”した迂回取引に見られるように、実は両国がその後も緊密な関係を保っており、そのことを米欧の統治エリートたちが密かに認めていたと考えるのである。

そうなると「なぜ、イスラエルは核問題を理由に『イラン憎し、討つべし』と騒ぎたてているのか」という問いが浮かんでこないだろうか。「米欧にとって中東における『本当の敵』は別にいる」そう私は考えている。対イラン戦争が勃発すると「本当の敵」は処断される。その時になって初めて、私たちはイラン問題が「高貴なウソ」であったことに気付くのだ。

原田武夫(はらだ・たけお)
元外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。
情報リテラシー教育を多方面に展開。講演・執筆活動、企業研修などで活躍。
https://haradatakeo.com/

ラグジュアリーとは何か?

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