夜来の雨も止みカシの木の林は朝靄に包まれ、遠くに近くに木々は影絵のように見えた。スペインのアンダルシア西部、ウエルバ県のアラセナ山脈と呼ばれる一帯は、スペイン最大と言われる鍾乳洞を擁し、希少な動植物が生息する自然公園もある。コルクの産地でもあり、セイヨウヒイラギやコルクガシなどが茂る地中海性森林で、デエサと呼ばれる放牧地が広がる。12月、アラセナの空気はひんやりと冷たい。
木立の中に、この日「マタンサ・ファミリア」が行われるというロドリゲス家の白い家が見えてきた。豚を屠ほふって保存食を作る一家総出のイベントで、今では珍しいが、以前は11月11日の聖マルティンの日に多くの家で行われていたという。生ハムを中心に塩漬け肉やソーセージ類などを作っていたのだ。ロドリゲス家のまわりには放牧された豚たちが走り回り、母親の乳を貪る子豚もいる。
ハモンと呼ばれるスペインの生ハムは、文字通り熱処理せず塩漬けにしたあと長期天然熟成されたハムで、スペインではおびただしい数がバルやレストランの壁や天井からぶら下がる光景は珍しくない。ハモンとは後ろ足の意があり、前足から作られるハムは「パレタ」と呼ばれる。
生ハムは白豚から作られる「ハモン・セラーノ」と、黒豚の純血イベリコ種から作られる「ハモン・イベリコ」の二つの種類に大別され、さらに原産地呼称制度のもとで厳密に分類されているが、キーワードは「ベジョータ」だった。
El hermoso mundo del Jamón Ibérico (1)
古代ローマ時代にイベリア半島に伝わったと言われる生ハムは、基本的な製法は変わらないまま、スペインでは動物性食品の最高峰として存在を維持。そのかぐわしさと食感は、美食家たちを魅了してやまない。
古代ローマ時代にイベリア半島に伝わったと言われる生ハムは、基本的な製法は変わらないまま、スペインでは動物性食品の最高峰として存在を維持。そのかぐわしさと食感は、美食家たちを魅了してやまない。
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