東北緑色革命
自在房蓮光が開いた平安時代の荘園

骨寺村荘園遺跡

Photo Satoru Seki  Text Junko Chiba

骨寺村荘園遺跡

曲線状の農道・用水路・畦道は、中世以降の田屋敷型散居集落の特質を今に残す。田屋敷とは文字通り、田んぼと屋敷がセットになった土地利用上の単位。独自の水源を持つ。また、水田の中で木立となっているところが「若神子社」。江戸時代の『風土記』には六所明神として、いつしか「吾勝尊・小碓尊」を祀るようになったと伝わる。

山裾に広がる水田地帯。風にそよぐ稲穂の波が、中世の日本の農村風景を彷彿とする美しい景観を成す。ここ一関市厳美町本寺地区は平安時代に骨寺村荘園が置かれた地域だ。

中尊寺との関わりは深い。その歴史は、清衡が自らの発願による「紺紙金銀字交書一切経」を完成させた自在房蓮光を、そのお経を納める中尊寺経蔵の初代別当に任命したことに始まる。以後、骨寺村は15世紀の室町時代まで、伝領されていく。

この間、奥州藤原氏の滅亡後にこの地を支配した葛西氏と所領争いが起きた。その時に作成された裁判資料と思しき2枚の絵図が残されている。中尊寺経蔵別当職を継承した大長寿院に伝来したものである。1枚は「詳細図(在家絵図)」と呼ばれ、農家や田んぼ、川や道路が細かく描かれている。また「簡略絵図(仏神絵図)」と呼ばれるもう1枚には、村を取り巻く山々が描かれ、尾根線を挟んで寺領と郡方が示されている。中世の村落景観を知る貴重な資料だ。

これら絵図と現在の地図が併載された散策マップを片手に、まずは西端に描かれた駒形根神社へ。鐘楼の脇に立つと、木立越しにかつての荘園さながらであろう田んぼが見渡せる。ここから本寺川沿いを歩くと、一部、自然の地形に沿ってつくられた曲線状の水路や水田群が見られる。このあたりが、「農村の原風景とも称すべき中世の景観を今に残すもの」と評価される所以だろう。気の向くままに畦道に入り、時に足を止めて稲穂の広がりと緑深い山々を視界に入れる。実に気持ちいい。山に分け入れば、慈恵大師にちなむ塚や神社、修験活動の痕跡とされる不動窟など、興味深い遺跡が点在するが、案内人なしでは辿り着けない。それだけ手垢のついていない場所とも言える。

(左)本寺地区では伝統的な農村景観を維持し、未来へと伝えるために、骨寺村荘園オーナーを募集。荘園米を宅配している。
(右)骨寺村荘園交流館で販売されている地元のとれたて野菜。レストランも併設されている。

“昔返り”したような感覚に陥るこの骨寺村は、目下、平泉の世界遺産に追加登録されることを目指している。その可能性を、これまでの経緯を踏まえて大矢氏はこう語る。

「平泉が3年前に失敗した理由は、北の政治的拠点であることと浄土思想と、2つのコンセプトを打ち出したことです。『一つにしてください』と勧告されました。それで今回は浄土思想に絞り、すんなり通ったわけです。ただし、柳之御所遺跡だけははずされました。さもありなん、ここは浄土ではなく政治の中心ですから。でも、私はむしろはずされて良かったと思っています。次に政治的拠点として申請する時の核として温存すればいい。で、そこに骨寺村が入るかどうか。問題は、中世の風景が残る荘園遺跡とされながらも、田んぼは大部分、機械が入りやすいように整備されているし、まだ十分に発掘調査も進んでいないことです。世界遺産は完全性・真実性が問われるので、まだ弱い。『もっと調査してください』と言われる可能性があります。勝負はこれからですね」

骨寺村荘園遺跡は日本ではすでに、史跡としての価値は高く評価されている。世界遺産に追加登録されるか否かは、今後の発掘調査がカギを握りそうだ。期待したい。

  • 東北緑色革命自在房蓮光が開いた平安時代の荘園 東北緑色革命自在房蓮光が開いた平安時代の荘園
    周囲の山々は鬱蒼とした森。道は整備されていない。
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    駒形根神社は現在の栗駒山(須川岳)を祀る。
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    陸奥国骨寺村絵図(詳細図)は中世の荘園世界への案内人。
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    各所に古い石造物がかつての姿のまま残る。
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※『Nile’s NILE』2011年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

ラグジュアリーとは何か?

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