時今浪花賑
食都のにぎわい

ネオンが輝く大阪の夜――。町のあちこちから“食い倒れ”パワーを感じるから、いつ訪れてもわくわくするのだ。大阪が食に対して前向きなのは、いつの時代からだろう。秀吉が大坂城をたてたころから? 西鶴が活躍した江戸時代から? 思うに、いつの時代も食材があふれ、うまいものが大好きな人々が暮らす、にぎわいの町なのである。今回は、「さすが食の都」と言わずにはいられない、そんな場所へ出掛けた。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

ネオンが輝く大阪の夜――。町のあちこちから“食い倒れ”パワーを感じるから、いつ訪れてもわくわくするのだ。大阪が食に対して前向きなのは、いつの時代からだろう。秀吉が大坂城をたてたころから? 西鶴が活躍した江戸時代から? 思うに、いつの時代も食材があふれ、うまいものが大好きな人々が暮らす、にぎわいの町なのである。今回は、「さすが食の都」と言わずにはいられない、そんな場所へ出掛けた。

水掛不動尊 法善寺。小道を挟んで筋向かいに不動明王が鎮座する。「お初大神」「金毘羅天王」と書かれたちょうちんがともる夜の境内には、人に代わって近所の猫が集う。

大阪では梅田、北新地の歓楽街を「キタ」と呼ぶのに対し、難波駅周辺の繁華街を「ミナミ」と呼ぶ。ミナミは心斎橋や道頓堀を含み、繁華街としては日本最大の面積を持つ。江戸時代、大坂城下の南端に遊郭が建ち、その周囲に呑み屋や料理屋が出来たことに端を発する、今も最もコテコテの大阪が広がる熱気あふれるエリアだ。

「くいだおれ太郎」やグリコネオン、かに道楽。大阪の代名詞のような派手な看板が立ち並ぶ道頓堀から路地を入った一角に、「水掛不動さん」で親しまれている法善寺がある。開山は1637(寛永14)年。お不動さんとは、商売繁盛、縁結び、煩悩滅尽、病気平癒など、何でも願い事の手助けをするという西向不動明王のことだ。火の不動明王に水を掛けるとは珍しいが、昔、女性の参拝客がお不動様にすがる思いで水を掛けたのが始まり。全身、苔に覆われて元のお姿が拝めない水掛不動に、今も多くの庶民が日々、たっぷりと水を掛けていく。大阪大空襲で六堂伽藍が焼失したときも、このお不動さんだけは残っていたという。他の伽藍は再建されず、現在はお不動さんと金毘羅堂だけを拝見できる。

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    法善寺横丁の東の入り口の看板は、三代目桂春団治の直筆によるもの。ここから先は石畳の細い路地が続き“昭和歌謡”の風情も漂う。
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    今も多くの参拝客が訪れる水掛不動。本尊の両側には矜羯羅童子(こんがらどうじ)と制多迦童子(せいたかどうじ)の脇侍像が立つ。
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この法善寺の参拝客向けに、境内に露店が立ったことに始まるのが法善寺横丁だ。どぎついネオンが瞬くミナミの中で、石畳の法善寺横丁には一線を画した雰囲気がある。入り口に掛かる看板の文字は、西が藤山寛美、東は三代目桂春団治の作。織田作之助の小説『夫婦善哉』の舞台となった善哉屋が、今もお不動さんの横に立つ。人情ものの歌謡曲にも度々登場する、昔ながらの浪花風情が漂う場所だ。

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    大阪松竹座。法善寺横丁から程近い御堂筋そばに立つ。大アーチのある洋風建築が印象的な、大阪の顔の一つである。
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    大阪といえば、たこ焼き、通りに黒目を向けた大ダコがのたうつ。この界隈には食材をモチーフにした立体的な看板が多く、実に大阪らしい。
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東西に延びる長さ80メートル、幅3メートルほどの2本の路地に、老舗の小料理屋から居酒屋、バー、イタリアン、フランス料理店など、ありとあらゆる種類の店が60軒ほど。夜には店先の看板や提灯に火がともり、仕事帰りのビジネスマンや女性客に加え、観光客も行き交う。てっちり鍋、鯨となにわの伝統野菜の水菜を使ったハリハリ鍋、浪速割烹、お好み焼き。大阪の味が何でもそろい、店構えを見て歩くだけでも楽しい。明治、昭和には2軒の寄席もあり、上方落語ファンでにぎわっていたという。2軒とも空襲で焼失したが、1軒は再建されており、当時の名残を感じさせる。

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    法善寺横丁の西にある藤山寛美直筆の看板。
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    昭和40年創業、カウンターと個室のある「浪速割烹 㐂川(きがわ)」。大阪の伝統野菜や漁場直送の魚介類をふんだんに使った大阪の味が楽しめる。
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    創業昭和25年の「伊勢えび料理 えび家」。生き作り、えび焚き、すき鍋など、さまざまなえび料理を会席で提供する。
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    織田作之助の『夫婦善哉』にも登場する庶民の割烹「正弁丹吾亭」。冬にはてっちりや鍋物も手軽に味わえる。
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    焼鳥屋「二和鳥(にわとり)」は、昭和28年の創業で、自然海塩で味付けした刺身でも食べられるほどの地鶏を串焼で出す。
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    桂春団治や三木助など、この界隈で活躍した落語家の名を連ねた看板。
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    浪速割烹の名店「割烹 錦水」。近海の魚介を中心に旬の味覚を提供している。
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    法善寺の入り口。御前に昭和22年からこの地で営業するふぐ料理の専門店「浅草」が立つ。
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うまいものあり、酒あり、笑いあり。狭い路地に大阪らしさが凝縮されていて、性別年代問わず、ここを愛する人が多いことにもうなずける。はやりの店を追うのではなく、夜更けまで、なじみの店を歩いて巡る。お不動さんを中心に、昔から庶民に親しまれてきた横丁ならではのほっとするような包容力が、夜な夜な人を引き寄せる。

法善寺と近隣の竹林寺で唱えられたという千日念仏から名付けられた千日前も程近い。なんばグランド花月や5upよしもとなどの演芸場が軒を連ねる、大阪切っての娯楽街だ。千日前で演芸を楽しんだ後に、ぶらりと法善寺横丁を歩くのもいい。

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    うなぎは背開きにして蒸し焼きする関東風と違い、腹開きで蒸さずに焼くのが関西風。パリッと焼き上げた皮がうまい。
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    立体的なふぐの看板につい目がいってしまう、「づぼらや」。もちろん、てっちり、ふぐ料理を味わえる。
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    道頓堀の名物の一つ、グリコネオン。
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    水菜と鯨のハリハリ鍋の専門店「德家」。刺し身や揚げ物の鯨会席も味わえる。
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    道頓堀の名物、くいだおれ太郎。現在は中座くいだおれビルの店先に立つ。
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    大阪名物、串かつの専門店「横綱」。新鮮な食材と油、とき粉、パン粉にこだわった、安値で地元ならではの串かつを出す。
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    道頓堀名物、動くカニ看板でおなじみの「かに道楽」。
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※『Nile’s NILE』2012年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。