金沢・主計町、万古の灯

大人の社交場として200年来栄えてきた金沢・茶屋街。“令和の旦那衆”が夜ごと繰り出し、芸妓たちの歌舞に酔う。今宵は、浅野川左岸沿いの「主計町茶屋街」へ。花街の風情漂う小路や坂道をぶらり文学散歩する、その先で、仲乃家の女将と芸妓たちが迎えてくれる。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

大人の社交場として200年来栄えてきた金沢・茶屋街。“令和の旦那衆”が夜ごと繰り出し、芸妓たちの歌舞に酔う。今宵は、浅野川左岸沿いの「主計町茶屋街」へ。花街の風情漂う小路や坂道をぶらり文学散歩する、その先で、仲乃家の女将と芸妓たちが迎えてくれる。

仲乃家ではんなり

金沢、中の橋を渡る、仲乃家の芸妓3人衆。右から千寿さん、桃太郎さん、うた子さん
中の橋を渡る、仲乃家の芸妓3人衆。右から千寿さん、桃太郎さん、うた子さん。「今日はたまたま同じお座敷なので、着物は相談して決めました」とか。県外のお客様のために見立てた三者三様の加賀友禅だ。

夕暮れ時、主計町の茶屋の一つ仲乃家を訪ねた。主計町の中では一番大きく、女将のきみ代さんを含めて6人の芸妓がそろう。

「店自体は30年近くになるでしょうか、私は仲乃家という屋号になってから、3代目の女将です。先代のお母さんが体調を崩して引き継がせていただいて、3年ほどになります。もともとこちらの芸妓で、今も現役。お座敷では地方をやります。華やかな立ち方は若い子に任せてますね」

芸妓がまず覚えなくてはいけない芸事は「立ち方」、踊りである。次に太鼓・鼓・大鼓・笛の「鳴りもの(お囃子)」で、それらを修めてから覚えるのが「地方(じかた)」、三味線と歌だそうだ。また芸には、小鼓と踊りの「一調一舞」、謡や舞の入らない囃子だけの「素囃子(すばやし)」、大太鼓と締太鼓を対として出囃子(でばやし)の曲をもとにした三味線に合わせて打ち分ける「お座敷太鼓」などがある。

「芸妓のメインの仕事は夜のお座敷ですが、稽古を含めてです。うちの子たちにはそう考えて、朝からとにかく動き回ってもらっています」
と女将。3人の芸妓に、厳しさの潜む、でも優しい笑みを向ける。

  • 金沢、主計町の風景は芸妓姿あってこそ、より映える
    「通りを歩くことはたま」だそうだが、主計町の風景は芸妓姿あってこそ、より映えるもの。遭遇できたらラッキーだ。運が良ければ、夕暮れ時、三味線や太鼓の音も漏れ聞こえる。
  • 金沢、仲乃家の玄関灯がともる頃、芸妓たちは座敷へと出かけていく
    仲乃家の玄関灯がともる頃、芸妓たちは座敷へと出かけていく。建物の格子戸から漏れる光が、ぼんやり辺りを照らす様は、実に幻想的である。
    仲乃家 金沢市主計町2-5 TEL 076-261-3455
  • 金沢、女将さんは現役の芸妓
    女将さんは現役の芸妓。「最高齢の芸妓は86歳。うちのお姉さんもそうですが、70代の方は多いですね。芸妓って意外と結婚しても続けていけるんですよ」とのことだ。
  • 金沢、金沢育ちの女将さんは「金沢には昔から、芸事を好む文化が根付いています。お素人さんでも琴や三味線のお稽古にいらしてましたよ」と昔日を振り返る
    金沢育ちの女将さんは「金沢には昔から、芸事を好む文化が根付いています。お素人さんでも琴や三味線のお稽古にいらしてましたよ」と昔日を振り返る。

一番のお姉さんは、13年目の桃太郎さん。富山出身で大学は金沢。大学では美術系の勉強をしていて、初めて舞台を見た時に「芸妓さんに対する意識が変わった」という。「金沢の芸妓は皆さん、お囃子が素晴らしい! 私もやってみたい」と思って、芸妓を志した。「大鼓も鼓も三味線も歌も、芸事はどれも好き」な彼女は、今後円熟味を増していくことが楽しみな逸材だ。

次は横浜出身、4年目のうた子さん。「習っていた日本舞踊のできる仕事につきたいと思って、芸妓の道に進もうと決めました」と言う彼女は、目下、笛の練習に一生懸命だそうだ。

そして一番年少の千寿さんは、仙台出身で、ほんの数カ月前にお披露目したばかりの新花さんだ。「母と金沢に遊びに来た時に、芸妓の文化があると知って、この世界に飛び込みました」と言うから、なかなか勇気がある。「何でもできる芸妓になりたい」と胸を膨らます。

ぴんと背筋を伸ばしつつも、はんなりした雰囲気を漂わせる彼女たちは、間違いなく次代の主計町を担う芸妓衆。今後も絶え間なく、芸妓文化の火が赤々と燃え続けるだろう。

※『Nile’s NILE』2020年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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