仲乃家ではんなり
夕暮れ時、主計町の茶屋の一つ仲乃家を訪ねた。主計町の中では一番大きく、女将のきみ代さんを含めて6人の芸妓がそろう。
「店自体は30年近くになるでしょうか、私は仲乃家という屋号になってから、3代目の女将です。先代のお母さんが体調を崩して引き継がせていただいて、3年ほどになります。もともとこちらの芸妓で、今も現役。お座敷では地方をやります。華やかな立ち方は若い子に任せてますね」
芸妓がまず覚えなくてはいけない芸事は「立ち方」、踊りである。次に太鼓・鼓・大鼓・笛の「鳴りもの(お囃子)」で、それらを修めてから覚えるのが「地方(じかた)」、三味線と歌だそうだ。また芸には、小鼓と踊りの「一調一舞」、謡や舞の入らない囃子だけの「素囃子(すばやし)」、大太鼓と締太鼓を対として出囃子(でばやし)の曲をもとにした三味線に合わせて打ち分ける「お座敷太鼓」などがある。
「芸妓のメインの仕事は夜のお座敷ですが、稽古を含めてです。うちの子たちにはそう考えて、朝からとにかく動き回ってもらっています」
と女将。3人の芸妓に、厳しさの潜む、でも優しい笑みを向ける。
一番のお姉さんは、13年目の桃太郎さん。富山出身で大学は金沢。大学では美術系の勉強をしていて、初めて舞台を見た時に「芸妓さんに対する意識が変わった」という。「金沢の芸妓は皆さん、お囃子が素晴らしい! 私もやってみたい」と思って、芸妓を志した。「大鼓も鼓も三味線も歌も、芸事はどれも好き」な彼女は、今後円熟味を増していくことが楽しみな逸材だ。
次は横浜出身、4年目のうた子さん。「習っていた日本舞踊のできる仕事につきたいと思って、芸妓の道に進もうと決めました」と言う彼女は、目下、笛の練習に一生懸命だそうだ。
そして一番年少の千寿さんは、仙台出身で、ほんの数カ月前にお披露目したばかりの新花さんだ。「母と金沢に遊びに来た時に、芸妓の文化があると知って、この世界に飛び込みました」と言うから、なかなか勇気がある。「何でもできる芸妓になりたい」と胸を膨らます。
ぴんと背筋を伸ばしつつも、はんなりした雰囲気を漂わせる彼女たちは、間違いなく次代の主計町を担う芸妓衆。今後も絶え間なく、芸妓文化の火が赤々と燃え続けるだろう。
※『Nile’s NILE』2020年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています