樹々の再生
こうした矢野さんの理論は、自然の基礎知識と、自然の営みを感じ取ってきた膨大な量の経験で編み出されたもの。机上の理論はなく、実践の地道なくり返しと改良が根底にある。
そして、その理論に基づく樹木再生の依頼が、矢野さんのもとにはひっきりなしに届く。
今年のゴールデンウィークもそんな依頼に応えていた。東京・国立市の市立国立第二小学校で、樹齢60年以上の多数の桜を含む木々の救出作業に専念していたのだ。
この小学校では校舎の建て替えに伴い160本ある木々のうち100本以上の樹木を伐採し、大半をチップにする計画が立てられていた。
しかし、どうしても納得できない保護者や市民が急きょプロジェクトチームを結成。伐採の日が迫る中、矢野さんに木々の移植を頼み、実行にこぎ着けた。
小学校では伐採した本数以上の木を新たに植えるとしていたが、「古い木のまわりには長い年月をかけて育まれてきた、土と空気、微生物を含む生き物たちとの生態系があります。新しい木を植えてもその木々が育んできた循環の元環境昨日はすぐに再生できるものではありません。現代の造園、土木が見落としている盲目的視点です」と矢野さん。
移植した木はコモで養生され、現在は校庭内の工事に影響がほぼないよう、残された既存木の生態機能の助けを借りて仮移植されている。校庭内に戻される可能性も含め、これから移植先を探すことになっているという。
「使い捨て」にされそうだった木の命は救い出せた。矢野さんと市民の力が一体になって取り組んだおかげだろう。