一方で、メデジンで最も有名な人物と言えるのが、世界の長者番付に名を連ねた、麻薬王のパブロ・エスコバルだ。メデジン・カルテルに君臨し、政治的にも力を持ち、1993年にメデジンの潜伏先で治安部隊に射殺された。44歳という短い生涯であったが、史上最も凶悪非情、野心的な人生は多くの映画などにもなっている。
メデジン・カルテルは消滅するが、エスコバルは過去の負の遺産として今も語り継がれている。一方で、メデジンの貧困層に多くの支援をしたとも言われ、一部地元では英雄視され、墓には花が絶えない。
近年は治安が良くなったコロンビアを訪れる旅行者に向けて、エスコバルゆかりのツアーが催行されている。彼の昔の住居や射殺された現場、墓などを訪ねるものだが、建物の大半は、廃虚となっている。メデジンの西150㎞にあった20㎢に及ぶ広大な別荘は、飛行場や動物園なども有したが、現在はファミリー向けのテーマパークとして利用されている。増殖しすぎたカバが近隣の河川に生息しており、生態系を脅かしているという。
ボテロもまた、体中に銃弾を浴びるエスコバル、潜伏先の屋根で倒れて死亡したエスコバルなどを描いている。だが、そのエスコバルの表情は穏やかで、踊っているようにも、眠っているようにも見える。一部地元では、今もエスコバルが生きているという説もささやかれている。エスコバルもまた、コロンビアの生み出したマジックリアリズムの権化となりつつあるのだ。