浪速嬉遊曲 3

2025年に大阪・関西万博の開催が決定し、いま改めて注目を集めている大阪。開発が進みながらも、どこか懐かしい昭和の雰囲気を残すこの街を語るうえで、歌は外せない。
“愛”と“情”がある大阪の歌の世界を歩くと、浪速の懐深く“濃ゆい”魅力が見えてきた。

Photo Masahiro Goda Text Rie Nakajima

2025年に大阪・関西万博の開催が決定し、いま改めて注目を集めている大阪。開発が進みながらも、どこか懐かしい昭和の雰囲気を残すこの街を語るうえで、歌は外せない。
“愛”と“情”がある大阪の歌の世界を歩くと、浪速の懐深く“濃ゆい”魅力が見えてきた。

大阪パワーに包まれて

大阪の街を歩いていると感じるのは、神社仏閣の多さだ。実際、大阪の寺院数は全国で2番目に多いという。由緒ある神社には多くの人が参拝に訪れる。商売を営む人も多いからか、大阪の人は信心深いのだ。

「すみよっさん」の名で親しまれる住吉大社

住吉大社
渡るだけでお祓(はら)いになるという反橋(そりはし)。石造橋脚は豊臣秀吉の妻、淀君が秀頼の成長祈願に奉納したと伝えられる。

代表格は、なんば駅から車で20分ほどのところにある全国の住吉神社の総本社、住吉大社だ。家内安全や商売繁盛、縁結びのご利益で知られる日本を代表する神社の一つであり、大阪では「すみよっさん」と呼ばれて愛されている。

境内には歴史ある見どころも多いが、至るところで見かける「パワースポットはこちら」や参拝方法についての懇切丁寧な手書きの貼り紙が気になった。同じ近畿でも品格を大切にする京都の神社では考えられないような親しみやすさに、思わず笑みが漏れる。

  • 一寸法師 一寸法師
    一寸法師は住吉大神の申し子だったという
  • 丹後局出産の地 丹後局出産の地
    源頼朝の寵愛(ちょうあい)を受けた丹後局(たんごのつぼね)が出産した場所
  • 誕生石 誕生石
    丹後局の子は成長して薩摩藩祖・島津忠久となる
  • 一寸法師
  • 丹後局出産の地
  • 誕生石

商売繁盛を願いに今宮戎神社へ

商売繁盛のご利益を求めて今宮戎神社へ
商売繫盛にご利益があるとして大阪では最も有名な神社の一つ。瑞垣(みずかき)や灯篭(とうろう)には寄進したそうそうたる企業名が並ぶ

商売繁盛にご利益があると言われている神社では、新世界と難波の間に位置する今宮戎神社も有名だ。

普段は静かな社だが、1月に催される「十日戎(とおかえびす)」には3日間で約100万人が参拝するという。この間、境内では「年のはじめのえべっさん、商売繁盛で笹もってこい」という賑にぎやかな囃子(はやし)が流れ、人々が福娘から福笹を授かる、お祭り騒ぎとなる。

その華やかなイメージは、かつて大阪では正月のお座敷遊びの定番だった上方唄『十日戎』で歌われているが、歌謡曲では2010年の中村美律子(みつこ)『大阪情話 ~うちと一緒になれへんか~』にも登場する。

 人はこころや銭やない
 泣いたらあかん 泣いたらあかん
 別嬪(べっぴん)台なしや
 飛田(とびた)のお店に出るという
 十日戎の前の晩
 あんたがいうた 言葉を忘れへん
 「泣きながら通天閣見上げ これ
 でウチの人生終わりやと思った 
 けど死んだらあかん。精一杯生き 
 てみよ あんたの言葉きいて 
 そう思ったんや」

まちの人に守られてきた大阪天満宮

大阪天満宮
本殿は天保14(1843)年の再建。江戸時代に7度の火災に遭うが「天神さんを焼いたらあかん」と守られてきた。

十日戎は大阪市北区の大阪天満宮でも行われていたが、戦後に途絶え、上方落語の寄席「天満天神繁昌亭(はんじょうてい)」の開席をきっかけに2007年から復活している。繁昌亭には初代春団治が愛用した赤い人力車が展示されていることから、「宝永(ほえ)かご行列」では、人力車に北新地の芸妓を乗せて賑わうという。

天満宮
派手さはないが荘厳な雰囲気が漂う

大阪では由緒ある神社もお高くとまらず、人々に親しみ、寄り添う。歌謡曲でもそれは同じで、きれいな言葉よりも泥臭く、人を想い、街を想い、懸命に生きる人々の情景を描く。そんなエネルギーと包容力に満ちているからこそ、この街に惹かれ、愛着を覚えるのだろう。ザ・ピーナッツは1970年のヒット曲『大阪の女ひと』で、別れた男を想いこう歌う。

 きっと良い いこと おきるから
 京都あたりへ 行きたいわ
 酔ったふりして 名を呼べば
 急にあなたが 来るようで
 離れられない 大阪を

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。