浪速嬉遊曲 1

2025年に大阪・関西万博の開催が決定し、いま改めて注目を集めている大阪。開発が進みながらも、どこか懐かしい昭和の雰囲気を残すこの街を語るうえで、歌は外せない。
“愛”と“情”がある大阪の歌の世界を歩くと、浪速の懐深く“濃ゆい”魅力が見えてきた。

Photo Masahiro Goda Text Rie Nakajima

2025年に大阪・関西万博の開催が決定し、いま改めて注目を集めている大阪。開発が進みながらも、どこか懐かしい昭和の雰囲気を残すこの街を語るうえで、歌は外せない。
“愛”と“情”がある大阪の歌の世界を歩くと、浪速の懐深く“濃ゆい”魅力が見えてきた。

新世界と通天閣
通天閣を中心に広がる新世界には派手な看板の飲食店が並ぶ。左のづぼらや本店にはかつて巨大フグ提灯が掲げられていた。

大阪昭和情緒のテーマパーク

新世界とは、通天閣やジャンジャン横丁、今は撤去された巨大フグ提灯などが有名な大阪市南部の下町を指す。明治36(1930)年の第5回内国勧業博覧会を機に、まったく新しい街(=新世界)として、駅や公園などが整備されたのが始まりだ。

地名は別だから、串カツ屋の店員に「新世界とはどこからどこまでなのか」と聞いたら「そら、この辺り一帯の、入り口と出口に『SHINSEKAI』のゲートがある界隈のことです。まあ、USJみたいなもんですわ」と返ってきた。

  • 新世界ゲート 新世界ゲート
    新世界出入り口にあるゲート
  • 大衆演劇場 大衆演劇場
    新世界にある大衆演劇場
  • 大入り 大入り
    看板の文字もとにかく巨大が基本
  • 新世界ゲート
  • 大衆演劇場
  • 大入り

規模こそ大きくはないが、昔ながらの大阪らしい飲食店がひしめく新世界は、確かに明治から昭和の生きたテーマパークのようだ。そしてここは、大阪を舞台とした多くの歌謡曲の舞台となった街でもある。アーケード下のジャンジャン横丁に足を踏み入れたときから、BGMになつかしの歌謡曲が流れてきた。

  • 新世界市場 新世界市場
    新世界市場の入り口ゲート。
  • スパワールド スパワールド
    新世界入り口のスパワールド。
  • マンホール マンホール
    名物のキン肉マンマンホール。
  • 通天閣 通天閣
    通天閣下の天井画。
  • 店主 店主
    ポスターの店主もノリが良い。
  • 遊技場 遊技場
    射的ができる遊戯場。
  • 串カツ屋 串カツ屋
    押し出しの強い飲食店の看板。
  • ガチャの穴場 ガチャの穴場
    「ガチの穴場」と読み違えがち
  • かすうどん かすうどん
    「かすうどん」も新世界名物。
  • ヒョウ柄 ヒョウ柄
    大阪のオバ様に愛されるヒョウ柄。
  • 新世界市場
  • スパワールド
  • マンホール
  • 通天閣
  • 店主
  • 遊技場
  • 串カツ屋
  • ガチャの穴場
  • かすうどん
  • ヒョウ柄

男を支える女

80年代、90年代の大阪歌謡曲には、かつて大阪で活躍した将棋棋士の坂田三吉、落語家の初代桂春団治の名が繰り返し登場する。いずれもその道を極めるとともに破天荒な生き様で人気を博した名士であり、そんな男たちを陰で支える女の情や強さ、かわいさを歌ったヒット曲は数多く存在する。

83年に発表された都はるみと岡千秋のデュエット曲『浪花恋しぐれ』でも、そうした男女の物語が歌われている。

 (男)芸のためなら女房も泣かす
 それがどうした 文句があるか
 (中略)今日も呼んでる  
 ど阿呆春団治
 (女)そばに私がついてなければ
 なにも出来ない この人やから
 泣きはしません つらくとも
 (中略)惚れた男の 惚れた男の
 でっかい夢がある

奇才、坂田三吉

  • 三桂クラブ 三桂クラブ
    新世界に唯一残る囲碁・将棋クラブの三桂(さんけい)クラブ。坂田三吉はこの近くに住み、新世界界隈で将棋を指していたという。
  • 王将 王将
    通天閣下の王将碑。坂田三吉の偉業をたたえるとともに「妻小春とともに相扶(たす)け貧困とすべての逆境を克服」したと記される。
  • 三桂クラブ
  • 王将

坂田三吉は貧しい生まれで、丁稚奉公の合間に覗き見た町角の縁台将棋で将棋を学んだという奇才である。賭け将棋で頭角を現し、後に棋士として獅子奮迅の働きをするが、生涯文字は読めなかった。

そんな三吉の数奇な人生と糟糠(そうこう)の妻、小春との物語は勝新太郎主演の映画『王将』にもなり、大阪の魂として愛され続けた。86年に発表された米倉ますみの『浪花めおと駒』でも歌われる。

 わての生きかた 八方破れ
 (中略)坂田三吉 将棋と酒に
 うつつぬかしてジャンジャン横丁
 降るは小春の 涙雨 涙雨

安くて旨(うま)い新世界グルメ

芸があろうが、女房を泣かして酒と女に溺れる生き方は令和には受け入れられまい。ただ、まだ暑い日に新世界を歩いた後の串カツとビールは、もう少しこの街に埋もれていたいと思わせる旨(うま)さだった。すじ肉を煮込んだどて焼きは濃厚で、日本酒が進むのもしかたなし。うどん1杯170円の新世界グルメは、安くて旨いが当たり前の大阪の真骨頂だ。 

  • サクサクの串カツ サクサクの串カツ
    串カツは皮が薄く、サクサクいける。
  • いくら串カツ いくら串カツ
    さけにいくらを絡めた親子串カツ。
  • きす串カツ きす串カツ
    キスを丸ごと1本揚げた串カツなど。
  • Ice Breaker Ice Breaker
    京都の地酒「Ice Breaker」も堪能。
  • どて焼き どて焼き
    白みそベースのどて焼きは濃厚な旨さ。
  • イチゴ串カツ イチゴ串カツ
    変わり種の練乳イチゴ串カツ。
  • 王将最中 王将最中
    昭和22(1947)年創業の将棋クラブの建物を生かした串カツ店「王将倶楽部」の王将もなかアイス。将棋は串カツとともに新世界の一文化だ。
  • サクサクの串カツ
  • いくら串カツ
  • きす串カツ
  • Ice Breaker
  • どて焼き
  • イチゴ串カツ
  • 王将最中

木津卸売市場と食い倒れの街

三輪明神
木津卸売市場の一角に祭られる三輪明神。木津卸売市場は300年の歴史を持つが、平成22(2010)年にリニューアルされた。

大阪の歌と食文化は縁の切れない仲にある。飲食店で身を立てようとする男とそれを支える女という構図が頻繁に登場するのだ。たとえば、川中美幸の『なにわの女』。

 ひょんなことから 小店を持った
 なにわ女と 流れ板
 祭りのあとの エーエー
 あとはよくある 艶ばなし

「流れ板」とは板前のことである。通天閣から歩いて15分ほどのところに、新世界から難波あたりの人々の胃袋を支える木津卸売市場がある。お好み焼き用のバラ肉に、だし用のかつお節や昆布、ずらりと並んだソース類。大阪の旨いもんはここから作られている。 

  • 漬物 漬物
    居酒屋では欠かせない漬物。
  • ポン酢 ポン酢
    ポン酢好きも大阪人の特徴。
  • 鰹節 鰹節
    かつお節店に並ぶ多彩な商品。
  • 野菜 野菜
    なにわの伝統野菜も興味深い。
  • たれ たれ
    「食材センターODA」のソース類。
  • 豚肉 豚肉
    精肉店の「お好み焼き用」肉。
  • 唐辛子 唐辛子
    大阪唐辛子などの地元野菜も。
  • 水なす漬け 水なす漬け
    漬物店が味を競う泉州水茄子漬。
  • のり のり
    おぼろ昆布は大阪土産に人気。
  • 漬物
  • ポン酢
  • 鰹節
  • 野菜
  • たれ
  • 豚肉
  • 唐辛子
  • 水なす漬け
  • のり

織田作之助の小説『夫婦善哉(めおとぜんざい)』では、金持ちで食に目がない男・柳吉の談として「彼にいわせると、北にはうまいもんを食わせる店がなく、うまいもんは何といっても南に限るそうで……」と、大阪ミナミの飲食店を挙げている。石川さゆりは同作をモチーフとした『夫婦善哉』でこう歌う。

 他人(ひと)には見えない
 亭主(おとこ)の値打ち
 惚れたおんなにゃ よく見える
 (中略)憂き世七坂… 夫婦善哉
 今日も可愛い 馬鹿になる

男の未熟さは承知の上で、かわいらしさを演じてみせる。それが大阪の女の情であり、強さなのだろう

「浪速嬉遊曲 —道頓堀から法善寺横丁へ—」と続く

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。