福井県の中央部に位置する越前市は、2005年に旧武生市と旧今立町が合併して誕生した比較的新しい市だ。しかしその歴史は古く、奈良時代から越前国府として栄え、京都からさまざまな技術が出入りしていたという。時代は変わっても、越前では多くの職人たちが技術を受け継ぎ、さらなる高みを目指して技を磨き続けてきた。そして今、越前市は世界に誇る「モノづくりのまち」として注目されている。
越前和紙、越前打刃物、越前箪笥。越前市が三つの伝統的工芸品を保有するに至った背景には、越前国が北陸道の文化と産業の中継基地であり、商取引がさかんに行われた歴史が存在している。また、そうした取引の中で、各地の要人をもてなす料亭文化も育まれた。
現在も数多く残る越前の料亭で、とりわけ重宝されたのが、唯一の皇室献上蟹として知られる「越前がに」だ。越前沖の海はエサが豊富で、海水温も蟹の生育に適しているため、新鮮で旨みのある、大ぶりの蟹が手に入る。口の中にほのかに上品な甘みが広がる蟹刺し、香ばしさと凝縮された旨みを味わう焼き蟹、濃厚なコクに酒が進む蟹味噌など、料亭で供される多彩な蟹は、味わいも風情も格別だ。
24年春には北陸新幹線が延伸され、新駅「越前たけふ」駅が開業されることが決まっている越前市。かの紫式部も少女時代を過ごしたことがあるという古都の風情と職人の粋、そして極上の美食に触れる旅を楽しみたい。
●越前市観光協会 TEL0778-23-8900
※『Nile’s NILE』2021年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています