『自炊者になるための26週』
三浦哲哉著/朝日出版社/ 2023年12月刊/ 2,178円
「自炊」がタイトルに付く本をよく見るようになった。2020年ごろからだ。最近では芸術総合誌『ユリイカ』(青土社)が「自炊」を特集し、“自炊料理家”による『世界自炊紀行』(晶文社)といった本も出版されている。
「自炊」と聞いて自身との距離を感じる読者も多いのではないだろうか。一人暮らしの若者、配偶者を亡くした独居老人、家族と離れて暮らす単身赴任者。「自炊」には「自分(1人)による、自分(1人)のための、自分(1人)の料理」というイメージが付きまとう。
本書の「自炊者」はそんな単身者を指してはいない。『ユリイカ』の「自炊」特集の中で著者・三浦哲哉氏が「『自炊』という言葉には、料理がいまやあえてするものになったというニュアンスがある」と語っているが、ここでは誰のためであれ「自分で料理する人」を意味する。
TVドラマや映画にもなった漫画『きのう何食べた?』で描かれる世界観が、いわば現代の自炊だ。『ユリイカ』は、テクノロジーとサービスの発展、他者の営みをのぞき見て誘発される欲望が人々を自炊へと立ち返らせるとする。昼に市販のサンドイッチを食べていた女子が、いきなり料理に目覚めて弁当を作り始めるアマゾンのCMを思い浮かべると分かりやすい。
全26章の章立てが本書の特徴を明快に示す。1 においの際立ち、2 においを食べる、3 風味イメージ、4 セブンにもサイゼリヤにもない風味、5 基礎調味料、6 買い物、7 蒸す、8 焼く、9 煮る……。においを入り口として調理へと入る仕掛けは、「生物にとって、においは誘惑の信号」だからだ。
焼きたてのトーストの香り、炊きたてのごはんのにおい。においと味は混じり合って知覚され、記憶に刻まれ、「心の燃料」となる。著者は「自炊において必要なのは2つ」と語る。「面倒を面倒でなくする工夫。そして、ささやかでも感動があること。そのために風味の魅力を取り入れていくこと」。この2つが両輪のように機能すると、自炊のシステムづくりは無理なく進む。

