カレーの最新メソッドに潜む思索と未来

本の食べ時 第12回 君島佐和子

本の食べ時 第12回 君島佐和子

本の食べ時 第12回、君島佐和子、カレーの最新メソッドに潜む思索と未来

『クラッシュカレー』
水野仁輔著/柴田書店/ 2025年7月刊/ 3,300円

水野仁輔さんの登場によって、カレーは個人の表現手段になった。音楽や絵、漫画のように、カレーで自分を表現する若者が増えた。スパイスカレーブームで沸いた2010年代後半、街に次々と出現した小さなカレー店には店主の表現意欲があふれていた。スパイスから組み立てる自由度ゆえに独自の解や法則を見いだす面白さに、豊饒の海の広がりを感じて余りあったに違いない。あれから日本のカレー界は確実に変わった。

水野さんは強い影響力を持つカレーの伝道師だ。1999年以来、カレー専門の出張料理人として全国各地で活動を展開してきた。カレーに関する著作は80冊を超える。そんな水野さんが今、世に送り出すのが、クラッシュカレー。スパイスやハーブを石臼でクラッシュ(潰す)して作る「香り玉」を味や香りのベースに仕立てるカレーである。これまで経験したことのないフレッシュで鮮烈な香りが衝撃をもたらすという。

クラッシュカレーを、ルウカレー、スパイスカレーに次ぐ「第3のメソッド」として徹底的に解説する入門書が本書である。基盤となる「香り玉」の構造と作り方、香り玉を使ったカレーレシピ、水野さんがクラッシュカレーを発想した原点であるタイのゲーン(スープや煮込み料理の総称)のレシピ、香り玉から自分で組み立てるカレーレシピ、4ブロックで構成される。

香り玉は赤・緑・黄・白・茶の5種類。赤はトウガラシ、緑はグリーンチリ、シシトウ、バジル、パクチー、黄はターメリック、白はニンニク、白コショウ、パクチーの根、茶はカレー粉とフライドオニオンが多く配合されるといった特徴があり、食材との合わせ方によってとりどりの世界が繰り広げられることとなる。

ハードルは石臼だが、そこはご安心あれ、ミキサーやブレンダー、フードプロセッサーでの代用も可。とはいえ、石臼で作る味を知ってしまうと、石臼を手放せなくなるであろうことも想像に難くない。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。